シンデレラは王子様と離婚することになりました。


「社長、見つけました。捺美さんが失踪する日、タクシー乗り場で捺美さんに話し掛けている人物が防犯カメラに映っていました」

 社長室でデスクに座って仕事をしていると、高城がそう言って入ってきた。

「タクシー乗り場? 仕事帰りか?」

「はい。捺美さんの義理の母親と姉はマークされていたので社内に入れませんでしたが、お父様はノーマークでした。それに、スーツ姿だったので、取引先の社員と思われたのか周囲に溶け込んでおり、報告にも上がってきていませんでした」

 会社には毎日、たくさんの取引先が出入りしている。私服女性は目立つが、スーツ姿の中年男性だと溶け込んでしまう。

「やはり、父親がトリガーだったか」

「そのようですね。二人は少し会話をしたあと、一緒にタクシーに乗っています」

 そして、捺美は実家に戻った。実家から出たいとあんなに願っていたにも関わらず。実の親子とのも絆はそれほど深いということか。いや、絆というより、呪縛か。

「父親は、常識的な人だと思っていたが、そうではなかったのか?」

「卸売業の会社で主任をしています。社内での評判は悪くないですよ。ただ、奥様が亡くなられてから人が変わったように静かで大人しくなったようです。それまでは快活によく笑い社交的だったそうですが、現在は飲み会などにも出席しないですし、世間話などに混ざろうともしないそうです」

「たしか、現在の奥さんとの出会いは鍼治療で、施術者と患者の関係だったそうだな」

「ええ、奥様が亡くなられて心身が衰弱していたお父様は、近所の鍼灸院に行ったそうです。そこで施術していたのが奥様で、通ううちに愛が芽生えた、といえば聞こえはいいですが、そこの鍼灸院はスピリチュアル系の怪しい店という評判だったそうです。お父様は知らずに入店し、すっかり洗脳されてしまったというのが本当のところでしょう」

「心に傷を負った者は洗脳されやすいからな。捺美の母親は癌で亡くなったのだよな?」

「はい、捺美さんが小学一年生の頃ですね。発覚してからあっという間だったそうです」 

 その一年後、俺と捺美は出会うことになるのか。
 捺美はまったく覚えていないようだが、俺にとっては生涯忘れることのできない出会いだった。

「それはそうと、捺美の実家に張り込ませている探偵から報告はないのか? 捺美は一度も外に出ていないのか? 買い物とかどうしているのだろう」
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