シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第十ニ章 きっと運命だった

どこに行くかなんて、決めて家を出たわけじゃない。
 どうするかなんて、私が聞きたいくらいだ。
 ただ、逃げたい。この状況にいることが息苦しくて、なかば衝動的に家を出た。
 外は明るく、太陽の光が眩しかった。
 昨夜はもう、死んでやろうと思った。でも、朝が来たら、やっぱり死にたくないなって思った。
 死にたいわけないよ。死にたくなんかないよ。でも、どこに行けばいいのか、どうすればいいのかわからなかった。
 なにも考えずに家を出ると、自然と足が動いた。
 大翔の家? それとも会社?
 どちらも違う。そこは、私が行っていい場所じゃない。
 今、私が行きたい場所は……。
 昔の光景が思い浮かび、そこに向かって歩き始めた。まずは、駅に向かう。
 電車に乗って向かう先は、八王子。
お母さんが生きていた頃、住んでいた場所。幸せだったあの頃。
電車に揺られること一時間弱。都心の街並みはすっかりなくなり、電車の窓から見える風景はとてものどかだ。
久しぶりに降り立った八王子駅。昔よりも開発が進んですっかり綺麗にあか抜けている。
それでもバスに乗ってさらに田舎に行くと、東京とは思えない風景が広がっている。
都心の洗練された高いビル群よりも、緑で覆われた山々の方が落ち着くなと思った。バスを降りて、目の前の山を見上げると、空気が澄んでいて美味しかった。ずっと座っていたから身体が凝っている。両手を空に突き上げて伸びをした。
山道の階段をのぼる。外は明るいのに、大きな木々に囲まれていて、少し薄暗く不気味だ。
(こんなかんじだったっけ? 滝山城址って)
 記憶の中の滝山城址は、草原に太陽の光が眩しく降り注いでいて、心地のよい場所だった。

(そういえば、ここは心霊スポットで有名って言っていたな。あれ、誰がそんなこと言っていたのだっけ?)

 息を切らしながら階段を登る。久しぶりに外に出たので体力がなくなっていた。
 頂上に着くと、記憶通りの明るい原っぱが広がっていた。こんなところに逃げ込んで、私は一体なにがしたいのだろう。原っぱに腰をおろしながら、空を見上げた。
 青空が灰色の雲に覆われていく。ゆっくりと、でも確実に侵食していく。

(とりあえず心のおもむくままに逃げてきたけれど、もう逃げる場所もないな。詰んだな)
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