シンデレラは王子様と離婚することになりました。
(終わった……)

 パトカーで連行される罪人のような気持ちだ。逃げたい、でも逃げられない。
 仕方なく私は全てを諦めて、車に乗り込んだ。

 社長と隣同士、並んで腰かけることになった私。パンプスは返してもらえたので、靴は履いている。
 さすがは高級車。後部座席はゆったりと広い空間だったのでパーソナルスペースは守られている。ついでに座り心地も抜群だ。
 沈黙の気まずい空気は嫌だったので、私から話し出した。

「あの、この度は、逃げるような形になってしまって申し訳ありませんでした」

「逃げるような形? 完全に逃げていただろ」

 社長は呆れるような物言いだった。

「いや、遅くまで残業するなと言われていたので、怒られると思いまして……」

「まあ、確かに遅すぎる時間帯だな。なにをしていた?」

「仕事がたくさん残っていました。仕事ができないと思われるのが嫌で、みんなが帰った後にこっそりやっていました」

「タイムカードは?」

「退勤打刻をタップして、いったん家に帰った後に再び会社に来ました」

 もう全て話してしまった方がいいと思って、嘘をつかず正直に話した。

「それじゃ残業代つかないだろ。駄目だろ、それは」

「はい、おっしゃる通りです」

 社長は足を組み、なにやら考え込むように、顎に手を当てていた。

「なるほどなぁ……」

「あの……私、クビですか?」

 怯える目で、社長を見つめる。大丈夫ですよね? 一流企業が、まさかこんなことで社員をクビにするわけ……。

「……それは、お前次第だな」

「私次第?」

 え、どういうこと?
 さすがにこの程度で本当にクビになるとは思っていなかったのに、まさかのクビっていうパターンもあるの?

「実は、今日、いや昨日の俺には、ある重大なミッションが課せられていた」

「は、はあ……」

 運転手さんが興味深そうに私たちをバックミラーで見ているのが分かった。
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