シンデレラは王子様と離婚することになりました。


 「捺美を見失った⁉」

 なにやっている、バカか!
 心の中で思うも、さすがに口にはできない。
 突然、携帯に向かって大きな声を出したので、八王子駅のロータリーにいた人々が俺をチラチラみてくる。
 捺美を追いかけていた探偵は、急に腹が痛くなったらしく、八王子駅のトイレに駆け込んで用を済まして出てくると、捺美を見失っていたらしい。
 捺美が八王子に向かっていると聞いた俺は、すぐに電車に乗って後を追う。そして八王子駅に着いて電話をしたら、見失ったという報告を受けたところだ。

(どこに行った……)

 駅のロータリーを見渡して、途方に暮れる。八王子は、捺美が以前住んでいた場所だ。昔住んでいた場所に行ったのか? それとも……。
 とりあえずタクシーに乗り、行き先を告げる。
 捺美が住んでいた場所は知らない。俺が知っているのは、あの場所だけだ。
 いるかどうかはわからない。でも、そこに行けと〝昔の俺〟が言っていた。

 あの日、俺は死に場所を求めて八王子駅に来ていた。
 どうして八王子だったのか。たまたま終着駅が八王子だったからだ。
 そして、八王子で自殺できそうな場所を携帯で調べて滝山城址に辿り着いた。滝山城址のことはよく知らない。たまたま検索がヒットしただけだ。
 山道の階段を登ると、すごく嫌な気配がした。死者が手招きしているような錯覚がして、身震いする。
 頂上に着くと、広大な草地が太陽に照らされていた。明るく開放的な場所だったのに、俺は不気味に思えてならなかった。
 おそらく、滝山城址は心霊スポットで有名というネット記事を読んでしまっていたからだろう。ここでたくさんの人が亡くなったという歴史を考えると、土塁や井戸の見方も変わる。
 その頃の俺は、生きていること自体が苦痛だった。自分の未来は、すでに生まれ落ちた瞬間から決まっていた。俺は跡取りとして誰よりも優れていなければいけないし、失敗なんて許されない。
 両親の死に方は強烈だったし、学校に行けば生意気だのなんだのと難癖をつけられていじめられた。
< 111 / 124 >

この作品をシェア

pagetop