シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 家にも居場所はないし、学校にも居場所がない。未来にも希望が持てないし、それならどうして苦痛しかない人生を送る必要があるのかと思って、俺は自殺を決意した。
 どこでなら死ねるだろうと辺りを探索していると、井戸の後ろから女の子が現れた。
 幽霊だと思った俺は、女子のような甲高い悲鳴を上げた。するとその女の子も驚いて、俺よりも大きい声で悲鳴を上げた。
 お互いに驚いているので、生身の人間だったのかと気付く。バツの悪さを感じ、つっけんどんな口調で虚勢を張った。

「うるせぇよ、俺は人間だぞ」

「そんなことわかっているよ! そっちが大きい声出したから驚いたの!」

 女の子は頬を膨らませて怒りを表した。小花柄のワンピースに、麦わら帽子を被っている。俺よりも背はだいぶ小さかった。

「お前、何年だ?」

「え? 小学二年生だけど」

「俺は六年だ。口を慎め」

 口を慎めという言葉の意味がわからなかったようで、きょとんとしている。これだからガキは嫌だ。

「お前、こんなところでなにをしている。子どもが遊ぶところじゃないだろう」

「君だって子どもでしょ!」

「俺は六年だ。ガキと一緒にするな」

「君こそなにしに来たの?」

「俺は……」

 どうする? 本当のことを言うか? 今知り合ったばかりの子に。でも、俺はもう死ぬわけだし、最後に人と本音で話すのも悪くはないか。

「俺は自殺しに来た。ここは心霊スポットって知らないのか? この崖から飛び降りて死ねば遺体も見つからずひっそりとこの世からいなくなれるだろう。つまり、ガキが遊びに来る場所じゃない。さっさと帰れ」

「心霊? 幽霊が出るってこと? まさか、私はよくここに来るけど見たことないよ。それより君、死にたいの? どうして?」

「ガキに説明してもわかりっこないさ。俺の苦悩は海より深いからな」

「自分だけが不幸とか思っているの、ダサ」

 腕を組み、目を細めて見下した口調で言われた。俺は頭にカーっと血がのぼって大きな声で詰め寄る。

「お前になにがわかる! 親が死んだ苦しみなんて、まともに想像すらできないだろ!」

「私のお母さんも死んだよ」
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