シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 「え?」

「一年前に病気で」

 嘘を言っているようには見えなかった。一瞬言葉に詰まったが、反論する。

「俺は両親が死んだ。俺の方が不幸だろ」

「お父さんは、最近再婚したの。意地悪な継母と継姉ができて、一緒に住まなきゃいけないの。両親がいない方がマシでしょ」

 たしかにそれは嫌だなと思った。だが、妙な対抗心が芽生えているので、負けられない。

「俺は、ずっと不登校だった。ようやく学校に行けるようになったと思ったらいじめられる。最悪だろ?」

「私だって友達一人もいないけど?」

 なんでもないことのように言われてたじろぐ。

「それに俺はお金持ちで、家業を継がなきゃいけない。勉強だってスポーツだって一位をとるのが当たり前で、失敗は許されない。わかるかよ、このプレッシャーが」

「一位とれるわけでしょ。じゃあ、いいじゃない。私は例え一位をとったって褒められない。求められてもいない。空気どころか邪魔な存在なの」

 なんだか、反論するのがバカらしくなってきた。そもそもどちらが不幸かを競うなんておかしい。

「お前も大変なのは、認めてやるよ」

「君も大変だね」

 互いに労うと、肩の力が抜けた。原っぱに腰かけて、空を見上げる。すると、女の子も俺の隣に腰かけた。
 なんだかドキドキする。この子、よく見ると可愛いな。

「私は悔しいから絶対死なない。私が死んだらあいつら喜ぶと思う。だから、意地でも死んでやらない」

「お前、強いな」

 女の子の瞳は、辛い思いを乗り越えた者しかわからない深い悲しみの色が淀んでいた。

「生きていたらさ、きっといいこともあると思うの。私は、自分の力で幸せを掴み取ってみせる。そのために頑張るって決めたの。私は誰のためでもない、自分のために頑張るの」

 胸に深く刺さった。

(自分のために頑張る……) 

 そんなこと考えたことなかった。勉強もスポーツも、周りが一位を期待するから、そうあらねばならないと思っていた。でも、そうか、自分のためか。自分の力で幸せになるのか。幸せは、他者や環境から与えられるものじゃない。自分の力で掴み取るものなのか。
 自分よりも幼く、小さな女の子が、とても大きく感じた。
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