シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 すっかり熟睡し、目を開けると、タクシーは会社のエントランスに停まっていた。もう外は暗くなっていた。
 てっきり大翔の家に向かっていたと思っていた私は、不思議そうな顔で大翔を見つめる。

「捺美のお父さんが、会社にいるらしい。家に捺美がいないことを知って、大慌てで探していたそうだ。捺美にとても会いたがっている。どうする? また今度にするか?」

 途端に心臓の鼓動は大きく急速に脈打った。

(怒られるかもしれない。怖い……)

 もう大丈夫だって思っていたばかりなのに、身体が全力で拒絶している。逃げ出したい気持ちを振り払うかのように、軽く頭を振った。

「大丈夫。向き合うって決めたから」

 大翔の目を真っ直ぐに見つめて言った。大翔は心配そうな顔をしながらも、私の背中に手を回してエスコートするように歩き出した。

「捺美のお父さんは社長室で待っている」

 私は一人じゃない。大翔が側にいる。大翔とずっと一緒にいるためにも、戦わなきゃいけない。弱い自分と呪縛の鎖はあの崖に捨ててきた。私は生まれ変わって、自分の人生を生きる。
 社長室に入ると、高城さんとお父さんが対面する形で応接のソファに座っていた。大翔が声を掛けると、お父さんはゆっくりと振り返った。そして、大翔の後ろに私がいることが見えると、お父さんは血相を変えて立ち上がった。

「どうして黙って出て行った。それに、その男とは離婚したのではなかったのか⁉」

 怒りに震えながら詰め寄るお父さんを見て、高城さんがうろたえていた。

「お父さん、私、大翔とは離婚しない。私はもう二度と実家には帰らない」

 言いきった私に、高城さんは驚いた様子で感動していた。でも、お父さんには怒りに火を注がれる形になったようで、カッとなったお父さんは手を上げた。

(ぶたれる!)

 肩に力を入れて、瞼をぎゅっと閉じた。頬に強い衝撃を受けることを覚悟したけれど、一向に痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、大翔がお父さんの手を掴んでいた。

「俺の大事な妻です。たとえお父さんであっても、傷つけることは許しません」

「なにがお父さんだ! 結婚の挨拶もしに来なかったくせに! 離せ、俺はお前たちの結婚を認めていない!」

 大翔はお父さんの手を離したけれど、私に再び危害を与えようとした時は、すぐに守れるように注意深くお父さんを見ていた。

「まあまあ、とりあえず落ち着いて。立ち話もなんですから、座って話しましょう」

 高城さんが促し、みんなが席に着いた。座れば距離ができるし、そうそう殴るような展開にはならない。
< 118 / 124 >

この作品をシェア

pagetop