シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 お父さんは、大翔の顔を見るのも嫌な様子で、身体を背けていた。すると大翔は立ち上がって、深々と礼をした。

「結婚のご挨拶もせず、大変申し訳ありませんでした」

 急に謝った大翔に、お父さんは驚いた様子だったけれど、すぐに体勢を大翔の方へ向け怒りを露わにした。

「謝って済む問題ではない。親の許可も得ず、勝手に娘と結婚するような失礼な奴に、娘を預けられるわけがない」

「違うの、それは私が……」

 お父さんに反論しようとすると、大翔が優しく私を制した。

「いい、悪いのは俺だから。お父さんが言っているのは正論だ。反対に合うとわかっていても、しっかりけじめをつけておくべきだった」

 大翔が形だけではなく、心からの謝辞を述べているとわかったお父さんは、黙ってソファに深く腰をかけた。

「……結婚そのものに反対しているというわけではない」

 お父さんは消え入るような小さな声で呟いた。私と大翔は驚いて目を見張った。

「結婚式にも招待されなかった。捺美の結婚式に出席するのはお父さんの夢だった」

 お父さんの声が少し震えていた。私たちとは目を合わせずに独り言のように呟いたお父さんの本音に胸が痛くなった。

「ごめんなさい」

 自然と謝っていた。お父さんがそんな風に思って傷ついていたなんて知らなかった。

「結婚に反対じゃないというなら、捺美と一緒にいてもいいってことですよね?」

 大翔が嬉々として聞くと、お父さんは不快な様子で眉ひそめた。

「すぐにということではない。捺美は実家に必要な存在だ。別居という形なら、認めてやらなくはない」

なにを言っているの?
 娘を思いやるお父さんらしい発言をしたと思ったら、私は実家に必要な存在だから、実家から出ることは許さないってこと?
 怒りで身体が震えてくる。

「私は実家には戻らない。実家にいて幸せだなんて思ったことは一度もない。あそこは私にとっては地獄なの」

「家事をやるのは確かに負担かもしれないが、その家事能力があるから御曹司と結婚できて、根性や体力がついて大企業に就職もできたのだろ。捺美の力になっているじゃないか」
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