シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「俺は、昨日中に、結婚相手を見つけなければいけなかった」

「へえ、それは大変ですね」

 社長の結婚相手探しなんて心底どうでもいい。携帯を取り出して、ネットサーフィンしたくなるほど、興味のない話題だ。

「正直、もう無理かなと思って諦めていた」

「ああ、そうですか」

 本気でどうでもいい。私の話はまだだろうか。

「そしたら、お前が期限ギリギリの時間に現れた」

 ん? この流れ、どういうこと?
 私、このどうでもいい話題に関係してくるの?

「お前にしようと思う」

「……はい?」

「お前、俺と結婚しろ」

「はあ⁉」

 眉間に皺を寄せて、思いっきり不快感を表す大きな声が出た。
 まずい、つい素が出てしまった。相手は社長だというのに。
 いや、でも、そりゃ取り乱すでしょうよ。
 結婚しろと言われたら、誰だって取り乱すでしょうよ⁉

「ああ、そうきましたか!」

 運転手さんはなにやら愉快そうに会話に入ってきた。
 社長はご満悦そうに運転手さんに笑顔を向けた。なぜか悩みから解き放たれたような清々しい表情だ。

「いやいやいや、待ってください。おかしいでしょう、名前も知らないような女とそんな理由で結婚するのは」

「名前なら知っているぞ。営業一課の工藤 捺美だ。俺は全社員の名前を覚えている」

 うわ、記憶力おばけだ。

「それは凄いですね。でも、結婚って相手ありきの問題だと思います。ノリと勢いで決めていいものではないですよね」

「俺は直感を信じてここまで来た男だ」

 社長はやけに自信満々で目が輝いている。本気で危険な人かもしれないと思ってきた。

「うん、それも凄いと思いますけど、あの、ええと、私の気持ちはどうなるのですか?」

「お前の気持ち?」

 私は社長の目を見て、大きく頷いた。すると、社長は鼻で笑ってから、

「俺のどこに不満があるとでも?」
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