シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 どうしてそんな思考回路になるのだろう。こんな酷いことを押しつけてきたのに、さらに恩着せがましいことを言ってくる。私がどんなに傷ついていたかなんて想像もできないの?

「お言葉ですが、僕が捺美さんと結婚したのは家事能力があるからじゃありませんよ。結婚に家事能力は求めていません。僕は家政婦が欲しかったわけじゃない。捺美さんという女性を愛しているからです」

 冷え切った心が、温まっていく。大丈夫、私は呪縛を断ち切ってみせる。

「私は実家には戻らない。どうしても戻らなくちゃいけない状況になったら、私は死を選ぶ。それくらい、私にとって実家は地獄なの」

「死を選ぶっておおげさな」

 お父さんは私の言葉に鼻で笑った。

「本当よ。私は今日、死ぬつもりで実家を出たの。自殺しようとしているところを大翔が救ってくれた」

 私の言葉に高城さんはぎょっとした。お父さんは驚いて口を開いたまま固まっていた。

「その話は本当です。僭越ながら言わせていただくと、お父さんは捺美の心の傷に気づくべきです」

 お父さんは両手を組み、目を泳がせながら下を向いた。

「だから私は実家には戻らない。もう二度と」

 はっきりと宣言した私に、お父さんはもうなにも言わなかった。ひどく動揺している様子で、顔が真っ青になっていた。

「さようなら、お父さん。私はもう、お父さんには会わない」

 私は立ち上がってお父さんに背を向けた。その後ろを寄り添うように大翔が続く。

(言えた……!)

 小刻みに震える足で、社長室を出る。私はようやく、実家の呪縛から解放された。

 お父さんは高城さんに任せ、私と大翔はタクシーに乗って家に帰った。
車の中でも外でも、大翔はずっと私の手を握っていた。いわゆる恋人繋ぎで、指先をしっかりと絡め、まるでもう二度と離さないと言外に伝えているようだった。
久しぶりのマンション。もう二度と戻ってこられないと思っていただけに感慨深いものがある。オートロックドアを開け、広い玄関に入る。
私には不釣り合いだと思っていたこの場所が、私の帰る場所となった。
手を繋いでリビングへと歩く。その間、なぜか二人とも話そうとしなかった。私は胸がいっぱいで話せなかっただけだけれど、大翔はなぜだろう。大翔の横顔を見ると、大翔も感極まった顔をしていたので、もしかしたら同じ気持ちなのかもしれない。
暗く静かなリビングに明かりをつける。いつも通り整然としていて、だだっ広い。実家のリビングの倍以上の広さはある。
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