シンデレラは王子様と離婚することになりました。
  社長は真剣な目で私を見つめた。

(私の望みは、あの家から出ることだ。でも……)

 押し黙った私の欲望を引きだすような甘い声で社長は囁く。

「お金ならあるぞ」

 まるで悪魔の囁きだなと思った。
 離婚前提の結婚。死期が迫っているというのなら、そこまで長い結婚生活にはならないだろう。
 でも、だからといってこんな怪しい申し出……。俯いたまま黙る私に、悪魔はなおも続ける。

「たしか、借金があるのだよな?」

「どうしてそれを!」

 驚いて顔を上げた私に、社長はニヤリと笑った。

「最終面接の時にお前自身が言っていただろう? 私はなりふり構っていられないと」

 そういえばそんなことも言ったような気がする。借金というか、高額な奨学金。このせいで一人暮らしができずにいる。

「もしも結婚したら、奨学金を全額返済してくれますか?」

「ああ、もちろん。一括で返済してやる。それに住むところだって与える。家賃は当然タダだ」

 急に心が揺れてきた。どうしよう、この案、めちゃくちゃおいしい話なのではないか。
 契約期間が過ぎたら私はバツイチになるけれど、その程度で高額な奨学金がなくなってあの家から自由になれるなら安いものだ。
 このままだと結局搾取され続けて自由を奪われる可能性も高い。
 この契約結婚は、私にとって唯一の救いの道かもしれない。
 でも……。

「あの、言いにくいのですが、結婚ってことは、その……妻としての役割も求められるってことですか?」

 顔を赤らめながら恥ずかしそうに聞くも、社長は私の言わんとしている意味がわかっていないようだった。

「妻としての役割? 家同士の集まりとか家事とかってことか? それは全く心配しなくていい。一切やらなくていい。ただ結婚してくれればそれでいい」

「いや、あの、そうじゃなくて……」

 もごもごと口籠っていると、運転手さんが助け船を出してくれた。

「夜のお勤めはどうするのですかってことですよ、社長」
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