シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 よ、夜のお勤めって、オブラートに包んでくれているけれど、それはそれで恥ずかしい響きだ。
 ようやく意味を理解した社長は、赤くなっている私を見て少し気まずそうに視線を逸らした。

「あ、ああ、まあ、それも、別に、無理強いするようなことじゃないからな」

「つまり、本当にただ、結婚さえすればいいってことですか⁉」

 私は目を輝かせながら、社長に詰め寄った。
 社長は戸惑いながらも、「あ、ああ」と肯定の返事をした。なぜか目が泳いでいる。

「いいでしょう、結婚。互いの利益のために手を組もうじゃないですか」

「なんかやたら上からだな。お前、見た目によらずいい度胸しているじゃないか」

「こう見えて、けっこう苦労してきているので」

 ニヤリと微笑む私に、社長は呆れるように笑って手を差し出した。

「宜しくな、互いの利益のために」

 私たちは力強く握手した。
 結婚することが決まったけれど、これが初めて触れ合った瞬間だった。

「さて、結婚相手も決まったし、式まで急ピッチで進めないと。じいちゃんが死ぬ前に」

 なんて不謹慎な、と思いながら、横目で睨みつける。

「どこに向かいますか? とりあえず社長のお家に向かっておりましたが、工藤様の家に行きますか?」

 運転手さんが、バックミラーを見ながら話し掛けてきた。

「工藤……様?」

 私の名前は会話中に出てきたから、そこで覚えてくれたのは分かるけれど、様をつけられるのは違和感だ。

「ええ、社長の奥様になられる方ですからね」

 そう言われると現実感が増してきて、なんだか不思議な気分だ。ほぼ初対面に近い相手と結婚することを決めるなんて、社長もおかしいと思うけれど、承諾した私も十分おかしいと思う。

「いや、俺の家でいいだろ」

「え?」

 なに言っているの、この人、という目で社長を見る。

「結婚するのだから、一緒に住んだ方がいいだろ」

 今度は社長が、至極当然といった面持ちで私を見る。

「え、でもそれは結婚してからでいいのではないですか?」
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