シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 緊張が高まりすぎて、他人事みたいな返事になってしまった。これから、私も住むというのに。
 エレベーターが止まると、ホテルの内廊下のような美しく装飾された空間が広がっていた。柔らかい絨毯が敷かれ、上品な壁紙が映えていた。
エレベーターから一番近いドアに社長は止まると、カードキーでドアを開けた。

(どうする⁉ やっぱり結婚やめますって言う⁉ 今を逃したら取り返しのつかないことになりそう)

 中に入ることを戸惑っていると、「さっさと入れ」と圧をかけられたので反射的に入ってしまった。
 オートロックなのか、背中越しにドアが閉まった音が聞こえた。
 だだっ広い玄関で、私は意を決し、社長に問いかけた。

「あの、今ここで約束してもらっていいですか⁉」

 突然、私が社長を責めるような物言いで食いかかっていったので、社長は顔をしかめた。

「……約束?」

 社長は私にぐいと近付いた。
 ああああ、圧が、圧が強い。でも、ここで負けてはいけない!

「私に! 手を出さないって……」

 最初は勢いよく啖呵を切るように言えたけれど、最後は尻すぼみになって小さな声となった。
 自分で言っていて恥ずかしい。社長から目を逸らして、気まずそうにもじもじする私を社長は見下ろした。
 すると、いきなり私の後ろの壁に、ドンっと手をつき、吐息がかかりそうなほど顔を寄せた。

「ずいぶん自分に自信があるようだな。一緒に住んだら俺がお前に手を出してしまうほど、自分は魅力的だと?」

「そ、そういうことじゃなくて、一応あの、確認というか約束というか……」

 顔が近すぎる。逃げられないように壁と社長に挟まれている。
 社長はもしかしたら怒っているのかもしれないけれど、イケメンの壁ドンは破壊力が凄い。心臓がバクバクいっていて、なんの緊張感なのかが分からない。
 恐怖とも違う、ときめきとも違う、とにかく顔が近い。

「なぜ俺がそんな約束をしないといけない? 言っておくが、俺に抱かれたいと懇願する女は山ほどいる。うぬぼれるな」

「……はい、すみませんでした」
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