シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 どうして私は謝っているのだろう。俺に抱かれたいと懇願する女は山ほどいると聞いて、なぜか、『でしょうね』という感想が浮かんだ。
 これだけ顔を近付けられて不快な気持ちにならないどころか、恋愛感情は一切ないはずなのにドキドキしてしまっている。
 単に顔がいいだけでなく、体中からとんでもないフェロモンを放出させているのだと思う。
 社長は私を許してくれたのか、壁ドンを解除してくれた。ようやくまともに息が吸える。あんなフェロモンを浴び続けたら、いつの間にか理性が崩壊しそうだ。
 顔がいいだけの男にはときめかないけれど、イケメンの中でも特別な最上位ランクの男の人は、近くに寄るだけで匂いとかフェロモンとかでクラクラさせるような特別ななにかを持っているのだと思う。
 あれ? なんか素知らぬ様子で約束しないように仕向けられた気がするのは……気のせいか。
 そんなこと言ったら、また『うぬぼれるな』って怒られそう。

「ちゃんとお前の部屋もある。ついて来い」

「私の部屋?」

 靴を脱いでスリッパに履き替えて、社長の後ろに続くと、玄関からわりと近いドアの前で立ち止まった。

「ゲストルームだ」

 社長が扉を開けると、私は驚きを隠せなかった。
ゲストルームは広々としていて、とても清潔感があった。シックで落ち着いた内装に、快適そうな大きなベッド。部屋の片隅には化粧台と小さな机、そして座り心地の良さそうな椅子も置かれていた。まるで高級ホテルの一室のような部屋に心が弾む。

「ゲストルームがあるのですか、社長の家には!」

興奮しながら中に入る。隅々まで綺麗でどこにも埃がたまっていない。

「まあ、社長だからな」

 それもそうか。しかも一流の大手企業。親もお金持ち持ちだし、別世界の住人だなあと思う。

「とても綺麗ですね。社長って掃除好きなのですね!」

「俺じゃなくて、毎日ハウスキーパーが掃除してくれている」

 ホテルかよ、と心の中で突っ込む。
 そりゃ社長自ら掃除なんてするわけないか。
 社長はゲストルームのウォークインクローゼットを開けると、ホテルで置いてあるようなパジャマやバスローブ、タオル類などが置いてあった。

「ここにあるものは全部遠慮なく使え」
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