シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第一章 王子様のプロポーズ

人生とはままならないものだ。
 それが人生というものだ、今さら我が身を嘆いたところで仕方がない。
 そうやって溢れだしそうな負の感情を抑え込んで、全てを諦めて受け入れるようになったのは、いつだっただろうか。

 お母さんが死んだ時?
 継母や継娘に反抗して平手打ちをされた時?
 ああ、そうだ、叩かれて暴言を吐かれても、お父さんが助けてくれなかった時だ。
 視線すら投げかけられず、お父さんはまるで違う世界にいるようにテレビを見ていた。
 少しだけ眉間に皺が寄ったのは、テレビの音が聞こえなくて不快だったからだろう。私のことなんてどうだっていい。それを理解した時、もうどうでも良くなった。

 小学生だった私が生きていくためには、全てを諦める必要があった。
 学校に行きながら、全ての家事を私が担当する。朝は早く起きて洗濯機をまわし、朝食を作って掃除もする。
 学校から帰ってきたら、洗濯物を取り込んで、夕食の準備。私に、勉強する時間なんてなかった。せめて授業中に覚えようと思っても、疲れがたまっていて寝てしまうこともあった。
近所の人たちも、薄々私がヤングケアラーだということを分かっていたようで、継母はそれをごまかすために、私を大学に進学させた。
本当は高校を卒業したら働きたかった。高校の学費も奨学金だったので、これ以上借金を増やしたくなかったのだ。
それなのに高校三年の夏に急に大学に行けと言い出して、そこから猛勉強しても公立に合格することなどできなかった。家庭にお金がないわけではなかったので、奨学金の利子も高額になる。加えて、私立の四年制大学。
 高額な借金返済のため、就職して家から出る夢を絶たれた。もしかしたら、継母は私が家を出て行かせないために四年制大学を勧めたのかもしれない。

「え、今から⁉」

 おしゃれなオフィスの内廊下で、白を基調としたシンプルなデザインの壁面に寄りかかりながら、携帯に向かって声を荒げた。
私、工藤 捺美(くどう なつみ)二十五歳。入社三年目の営業事務職。
会社は、近代的な四角のガラス張りの高層ビルで、地上三十五階・地下一階の構造となっている。営業一課がある二十三階が私の仕事場だ。
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