シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 さらに化粧台の中には、メイク落としや化粧水などのアメニティ類がしっかり揃っている。

(ガチで高級ホテル。急なお泊りでもなんの不都合もない徹底ぶり)

「そしてこっちの部屋は風呂場と洗面所だ。洗濯乾燥機があるから、少量ならすぐに乾くし、スーツはこっちの除菌用低温乾燥機を使えばクリーニングに出したみたいになるぞ」

 うわ~、凄い。コンビニで色々買ってこようと思っていたけど、その必要は一切ないみたい。

「俺は朝に風呂に入るから、お前はゆっくり入って早く寝ろ」

「なんか、至れり尽くせりしてもらってすみません」

「なにを言っている。俺の嫁になるのだから、でかい顔して居座っていればいい」

 社長はにこやかに笑って、私の頭をポンポンと撫でた。

(うわ~、頭ポンされたぁ。こんなナチュラルに一切の嫌味なくできる社長って凄い)

 嫌味どころか、不覚にも胸がキュンとしてしまった。
 こんな女心を鷲掴みにされる行為をされたら、意外といい人なんじゃないかって思ってしまう。
最上位ランクの男の人ってやっぱり凄い。普通の男性が同じことをしてきたら、触るな、セクハラだって思うところだ。

「俺はこっちの寝室にいるから。なにかわからないことがあれば遠慮なく言えよ」

「は、はい……」

 あれ、意外と優しい。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい……」

 色男って凄い。息を吐くように女性に甘い笑顔を向けることができるのか。
 これは勘違いしてしまう気持ちがわかる。私だけに特別なのかなって。
 まあ、私は勘違いしないけどね! なにせ離婚前提だし!
 お風呂に入る準備をして、そそくさと浴室に入る。バスルームも広々としていて、ここにも充分な設備が整っていた。大理石のタイルが高級感をただよわせている。
 下着類は洗濯乾燥機に入れて、クリーム色のスカートスーツはロッカーのような形をしたクローゼット型のホームクリーニング機に入れた。
 ハウスキーパーさんが毎日掃除してくれているからか、浴室も水滴一つなく清潔だ。
 なんでこんなことになったのかと思いつつ、手早く体を洗う。
 この選択は正しいのか、それとも間違いなのか。
 不安な気持ちは当然あるけれど、継娘や継母の住むあの家に帰らなくて済むと思うと清々しさもある
< 20 / 124 >

この作品をシェア

pagetop