シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 長年ずっと夢見てきた。
 何度も何度も、あの家からどうやったら出られるのか考えて、そして最後は絶望するのだ。現実的に、どうやったって無理だって。
 感情に任せて家出したところで住むあてもお金もない。奴隷のような生活は悔しいけれど、家を出たところで新たな地獄が待っているだけだ。
社長と結婚するという選択は地獄?
いや、こんな素敵な場所で生活できることが地獄なわけがない。きっと大丈夫。この選択は間違いなんかじゃない。
自分に言い聞かせるように納得させて、浴室を出ると下着はすでに乾燥が終わっていた。
パジャマに着替えて、髪をゆっくり乾かしたけれど、スーツの除菌はまだ終わっていなかった。

(あと十分か……ここでこのまま終わるのを待っていようかな)

 部屋に戻ってベッドに入ったらそのまま寝てしまいそうだ。

(はあ、疲れた……)

 椅子に座りながら、クリーニング機を見つめる。瞼の重みに必死に耐えながら、なんとか起きていようと頑張ったけれど、結局睡魔には勝てずに眠りに落ちてしまった。

 携帯のアラーム音が深い眠りから私を引きずり出す。
 ああ、もう朝だ。洗濯して朝ご飯作って……。
 そうだ、リビングも掃除機かけなきゃ。きっと、お菓子の食べかす等が床に散らばっている。
 目を開けると、見慣れぬ光景が広がっていた。ふかふかのベッドに、シックな壁紙。

(あれ、私……)

 誰もいない部屋で、記憶を手繰り寄せる。
そうだ、昨日……っていうか今日か。社長の家に泊まることになったのだ。お風呂に入って、スーツの除菌終わりを待っていたところで……ええと、私、どうやってこの部屋に来たのだろう。
 壁には、しわも伸びてまるで本当にクリーニングに出したかのような仕上がりのスーツがハンガーに吊り下げられていた。
 あれ、私、本当に記憶がない。椅子に座ったまま寝てしまった気がする。ということは、ベッドまで運んでくれたのは社長だろう。

(うわ~、もう初日からやっちゃったよ)

 頭を抱えて恥ずかしさで身悶える。
 椅子に座りながら爆睡って、お酒を飲んだわけでもないのに。
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