シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 連日の疲れが残っている中、深夜の階段爆走。それに加えていきなり結婚することになって初日から同棲。心身共に疲れ切っていたとはいえ、さすがに抱きかかえられた時に起きろよと自分に突っ込みを入れる。
 起き上がってスーツに着替えた。私が家に帰っていないことを知った継娘や継母は怒り心頭だろう。なにせ朝ご飯を作る人がいないのだから。

(知るか。私は、私の人生を生きる)

 二人の携帯を着信拒否する。ラインもブロックだ。
 身支度を終えた私は、リビングに行ってみた。

「うっわ、広い」

 朝日が入り込むリビングは想像していた以上に解放感があって、思わず声が漏れ出た。
 壁は一面ガラス張りのワイドスパン。一人暮らしでこの広さ必要? と疑問を投げかけたくなる間取りだ。
 床は光沢のある木目調のフローリングで、大きな窓から陽光が差し込みキラキラと輝いていた。
 ソファは大人二人が余裕で横になれるほど大きいし、壁に掛けられているテレビはスクリーンのように大きい。部屋の隅には緑が映える立派な観葉植物があって、高級マンションのモデルルームをそのまま採用したかのような家具の配置だ。
 キッチンカウンターは漆黒の大理石で、一見すると冷たくて重い雰囲気があるけれど、日差しを浴びると柔らかな光沢が生まれ、輝きを放っている。
キッチンには、コーヒーメーカーやオーブンなど最新の高性能な調理器具や食器が揃っていた。
大きな冷蔵庫を前にして、開けていいのか一瞬ためらったけれど、社長の分の朝食を作っておかなければと思った。
 冷蔵庫を開けると、中身はミネラルウォーターや缶ビール等のお酒類などしか入っていなかった。

(そっか、社長が料理なんてするはずないか)

 朝食はいらないタイプなのかもしれないと思って、そっと冷蔵庫のドアを閉める。その時だった。

「おはよう、早いな」

 背後から社長に話し掛けられて、驚きすぎて肩が上がった。

「おはようございます! 勝手に冷蔵庫開けてすみ……」

 すみませんと謝るつもりだったのに、振り返った目線の先にいた社長の姿に言葉を失った。
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