シンデレラは王子様と離婚することになりました。
鍛え上げられた上半身に目が釘付けになる。サテン生地の黒色のパジャマズボンは履いているものの、上半身裸に濡れた髪の毛。シャワーを浴びたてなのか、首筋にタオルをかけている。
 いつもはしっかり髪の毛をセットした社長しか知らないので、おろしてある髪を見るのは新鮮だった。

(腹筋が割れている!)

 かっこいいとか眼福とかの次元を超えてくるほどの色気だ。タイプとかタイプじゃないとか、好きとか嫌いとか、もうそういう感情を越える圧倒的な雄としての魅力が社長にはある。側にいるだけでクラクラしてくるのだから、とんでもない人物だ。ここまできたら歩く兵器だ。危険だ、野放しにしちゃいけない。

「家にあるものは勝手に使っていいからな。駄目なものはちゃんと言うから」

 社長は濡れた髪のままキッチンに入り、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出した。

(近い、近い、近い)

 歩く兵器が来たので、思わず後ずさりしてしまう。

「昨夜はあの、寝室に運んでくれたのって社長ですか?」

 ミネラルウォーターの蓋を開けようとしていた社長の手が一瞬止まった。

「俺の他に誰がいる」

「そ、そうですよね。大変失礼いたしました! 持ち上げられた時点で起きろという話ですよね、もう自分でもびっくりです!」

 恥ずかしすぎて早口で言うものの、社長は私の顔を見ずに蓋を開けた。

「いや、別に……」

 あれ? なんだろ、この反応。体重が重すぎて引いたとか? 申し訳なさすぎる!

「それだけ疲れていたってことだろ。もっと寝ていれば良かったのに」

「いつもこの時間に起きているので大丈夫です。家族の朝ご飯の準備とか色々やることが多いので」

 その言葉に、社長は私の顔をじっと見つめた。

「仕事しているのに、家族の朝ご飯をお前が作っていたのか?」

「学生の時からなので、もう慣れています」

「遅くまで仕事して、朝早くから家事もして。体壊すぞ」

「大丈夫です! 見ましたでしょ、私の走りを。体力と根性には自信があります!」
 
胸を張って言うと、社長は眉間を寄せた。

「無理しすぎだ。お前はいつも昔から……」

「昔から?」

 私が小首を傾げると、社長はハッとしたように視線を逸らした。

「なんでもない。着替えてくるからゆっくりしていろ」

 社長はそう言って、リビングから出て行った。
 勝手に使っていいなんて、社長は太っ腹だなぁ。神経質なタイプじゃなくて良かった。
 社長の言葉に甘えて、キッチンの棚を開けていく。生活する上でどこになにがあるのか知ることは大切だ。
 そうしていると、いつものビシっと決めたスーツ姿の社長が戻ってきて、会社に行くことになった。


< 23 / 124 >

この作品をシェア

pagetop