シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第三章 溺愛のマリッジブルー

正面玄関のロータリーに出ると、昨日の黒い高級車が停車していた。
 運転席から出てきたのは、昨日のイケメン運転手さん。暗かったし、顔しか見られなかったからよく分からなかったけれど、髪はゆるやかなパーマがかかっていて、細身のスリーピーススーツをオシャレに着こなしている。鼻筋は高く通っていて、いつも口角が少し上がっているので柔らかで優しそうな印象を与えている。瞳を覆う眼鏡は、彼の知性を表していて、それでいて整い過ぎている顔を隠しているようにも見えた。ただならぬ雰囲気があるので、運転手ではなくて秘書かもしれない。
 同じ会社で働いているとはいえ、社長と会う機会なんて滅多にない。秘書が男の人だったことすら知らなかった。

「おはようございます」

 朝から爽やかな笑顔だ。眼鏡をしているからきっちりして見えるけれど、昨日の社長との会話のやり取りを聞く限り、真面目なかんじはしない。

「朝食をご用意しておきました」

 そう言って秘書の方は紙袋を社長に渡した。

「さすがだな、高城」

「冷蔵庫になにもないこと知っていますからね」

 高城さんっていうのか。覚えておこう。それにしても、仲いいな、この二人。
 社長と並んで後部座席に座りながら、高城さんが用意してくれたカフェのサンドイッチを頬張る。
 社長は食べずにコーヒーを飲んでいた。
 朝食は食べない派なのかな。作ったら逆に迷惑になるかな。どういう風に生活していくのがベストなのだろう。社長のことを何も知らなすぎる。
 会社に着くと、ずらりと役員の方々が社長の到着を待っていた。
 社員は裏口から入るのがルールなので、正面玄関では毎朝こんなことになっているとは全く知らなかった。

「ちょ、ちょっと、これ私も一緒に降りたらまずくないですか?」

 青ざめながら社長に助けを求めるも、社長は涼しい顔をしている。

「気にするな、俺たちは結婚するのだから」

「いや、だからって! 色々と心の準備が!」

「なにを言っている、もう一晩共に過ごした仲だろ」

 社長の意味深な言葉に、高城さんが驚いた顔で振り返ったので、慌てて弁明する。

「ちょっと! 誤解を生むような発言しないでください! 別室で別々に寝たでしょう!」
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