シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「部屋は別々だが、俺の家だ」

 なぜか社長は勝ち誇ったような顔をして、高城さんに目配せをした。
 高城さんは高城さんで、そんな社長の様子に苦笑いするでもなく、なぜか微笑ましいという好意的な目で答えているので二人の関係性がよくわからない。
 後部座席のドアが開き、役員の方々の視線が集まっている。もう逃げるわけにもいかないし、隠れることもできない。
 驚いている役員の方々に微笑んで見せ、車から降りた。
 社長も車から降りると、腰に手を当ててエスコートする。

(もう近い! やめて!)

 と思うも、振り払うわけにもいかない。

「おはようございます!」

 役員の方々が一斉に頭を下げる。
 うちの会社って極道系だったの? と思うような光景だ。
 中でも一番驚いていたのが、営業本部長だ。他の役員の方々は私の顔は見たことがあるかも程度だが、営業本部長は私の顔も名前も知っている。
『どうして工藤君が。これは一体どういうことだ』と本部長の顔に書かれてある。
 申し訳ない気持ちになりながらも、社長はご満悦な様子で私の腰に手を回したまま会社の中へ入っていった。
 なぜか社長室へと通される。最上階のワンフロア。一介の社員は入ることすら許されないその場所に足を踏み入れてしまった。
 太陽の光が入り込む室内は、まるでドラマのワンシーンのような豪華でスタイリッシュな空間が広がっていた。成功者の証といわんばかりの大きなシャンデリアに、汚れ一つない真っ白な床。煌びやかというわけでもなく、全体的に清潔感のある落ち着いた色合いで統一されている。
 オフィスデスクは黒ガラスの天板で、その上には大型モニターのパソコンが置かれている。
社長室の真ん中には、応接用の巨大なソファとセンターテーブルがあり、サイドボードには生け花が飾られていた。

(すご……)

 圧巻の光景に目を丸くしている私を、社長は応接用のソファに座らせた。
 そして自分はデスクに座って仕事を始めたので、私は慌てて立ち上がった。

「あの! 用事がないようなら営業部署に行っていいですか⁉」

 すると社長は怪訝な表情を浮かべた。

「ここで仕事すればいいだろ」
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