シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「それなら、言いたくないです。すみません」

「そっか……」

 と本部長は肩を落として去っていった。
 私たちの会話を聞いていた女子たちが、こちらに聞こえるような声で会話を始めた。

「言いたくないってさ、つまりそういうことだよね」

「社長の車で出勤しておきながら、言いたくないってなに?」

「自慢しときながら聞くなって態度おかしくない?」

(私だって好きで社長の車で出勤したわけじゃないのに!)

 言い返したくなる言葉を飲み込みながら、必死で仕事に集中する。結果を残さなくちゃ。誰からも文句言われないくらい仕事ができるようになって……。
 そう、たとえば、佐伯さんみたいに。
 チラリと佐伯さんの方を見ると、バチリと目が合った。佐伯さんは慌てて目を逸らした。

(佐伯さんは、今朝のことどう思ったのだろう。仕事がやり辛くなるなって思われたかな。それとも恋愛なんかしてないで仕事しろと思ったかもしれないな)

 佐伯さんから認められたい。そんな思いの中、必死で頑張ってきたから、佐伯さんに呆れられるのは嫌だなと思った。他の人からは、どう思われてもいいけど、佐伯さんには……。

(とにかく仕事だ、仕事しよう)

 気持ちを入れ替えて集中する。社長と結婚するとはいっても、すぐに離婚するわけだし、しっかり一人で生きていけるように力をつけないと!

「工藤、この前頼んでおいた集計データ、出来上がっているか?」

 佐伯さんから話し掛けられて、ハッとして顔を上げる。

「はい! すぐに印刷して持っていきます」

 昨日の夜必死に作ったデータを印刷する。良かった、残業しておいて。
 コピー機に印刷物を取りに行くと、高城さんが営業一課のオフィスに向かって歩いてくるのが見えた。なんだか、嫌な予感がする。
 高城さんと目が合うと、高城さんはニコっと笑って手招きした。印刷が終わったデータを持って高城さんの元へ行く。

「どうしたのですか?」

「相談役が来社されました。社長のおじい様です」

 私は驚いて目を見張り、周囲に聞こえないように小さな声で聞いた。

「え⁉ 危篤だったのでは⁉」

「危篤ではないです。余命宣告はされていますが……。社長が結婚相手を決めたと聞いて、病院から駆けつけてきました。つまり、あなたに会いに」
< 27 / 124 >

この作品をシェア

pagetop