シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「一般市民が伊龍院家と結婚するのか?」

 不愉快な様子がありありと口調に出ている。
 これは、結婚する前に破談になるかも、と思った。

「誰でもいいから結婚しろと言ったのはあなたでしょう」

 社長も眉間に皺を寄せて応戦している。

「だからといって……」

「この子がいいのです」

 社長は急にきっぱりとした物言いで、おじい様の言葉をさえぎった。

「この子と結婚します」

 社長はおじい様の目を真っ直ぐ見つめて、強い決意に満ちた言葉で言いきる。
 おじい様は一瞬驚いた顔をして社長を見て、そして薄く笑った。

「……なるほど、この子か」

 ポツリと呟くと、おじい様は私の方に向き直った。

「名前は?」

「工藤捺美です」

「捺美さんか。大翔を宜しく頼むよ」

「は……はい」

 罪悪感で胸が痛む。離婚前提の契約結婚なのに。昨日出会ったばかりで、お互いのことはなにも知らないし、愛だってないのに。

「結婚相手が決まれば、あとは結婚式だ。一ヵ月以内に挙げてくれ。それまではしぶとく生きられる気がしてきたわい」

 おじい様は愉快そうに高笑いした。余命宣告されているとは思えないほど生命エネルギーに満ちて元気そうだ。

「もちろんです。最短で挙げます。もう関係各所に通知を出しました。な、高城」

「はい、会場はおさえました。あとは詳細を詰めるだけです」

(ええ⁉ いつの間に⁉)

 声を出したいけれど、出せる雰囲気ではないので必死に抑える。

「うむ、宜しい。最短で頼むよ」

 そう言っておじい様は部屋から出ようとしたので、社長が立ち上がり車椅子を押した。

「病院まで送ります」

「うむ」

「高城、あとは頼んだぞ」

「承知いたしました」
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