シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 東京証券取引所プライム市場上場、研究や開発用の解析機器やビジネス情報機器、半導体などを扱う大手の一流企業に入社できたのは、私の人生の中で一番の幸運かもしれない。

「作り置きしたものがあるじゃない。それじゃ駄目なの?」

『もう食べちゃったわよ。早く帰ってきて、お腹空いて死にそう』

 電話の相手は、二十六歳でフリーターの継娘だ。苛々した様子を隠すことなく無理難題をふっかけてくる。

「どこかで夕飯を買ってくればいいじゃない」

『はあ?』

 おかしなことは言っていないはずだが、継娘の癪に障ったらしい。

『ちょっと、お母さ~ん、捺美が夕飯買ってこいだって』

 近くにいるらしい母親に嫌味ったらしく告げ口をする。
 ああ、もう面倒くさい。こめかみの辺りがズキズキしてきた。

『捺美、意地悪言ってないで、早く帰ってきなさいよ』

 電話の相手は継娘から継母に代わった。

「意地悪じゃなくて、まだ仕事が残っているの。そんなに毎日、定時で上がれないわよ」

『生意気な子ね。お父さん、捺美が夕飯作らないって言っているわよ!』

 継母は私を責めて、挙句の果てには父を出してきた。

『捺美、仕事が忙しいのか?』

 継娘や継母とは違う、穏やかで優しいトーンで父は話した。

「……うん」

『そうか。だが、仕事は後からいくらでもできるだろ。早く帰ってきなさい』

「……わかった」

 父から言われると断れない私。継娘や継母はそれをわかって父を利用してくる。私が父の頼みを断れないように、父も継娘や継母の頼みを断れない。それが、どんな理不尽なことだとしても。
 最先端のデザインオフィスは、クリアな白い空間にグリーンの観葉植物が配置されている。広々としたフロアには快適なデスクが並べられ、広々とした窓からは夕日の茜色が差し込んでいる。
自分のデスクに戻り、帰る準備をしていると、職場の同僚の女子たちがそれを目ざとく見つけて寄ってきた。

「工藤さん、また定時上がりですかぁ?」

「合コンとか?」

「可愛い子は飲み会に引っ張りだこでいいなぁ。私は仕事が忙しすぎてそんな暇ないもの」
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