シンデレラは王子様と離婚することになりました。
社長の嫁や、元嫁として腫物扱いされて仕事がしづらくなって、退職なんて最悪ルートになったら、この契約結婚は私にとって損する結果にならないだろうか。

(本当にこのまま進めちゃっていいのかな……)

 不安な気持ちを抱えながらも、辞退しますと言えるような状況でもなく。

「とりあえず、式場に行きましょう。色々と決めておかないといけないものがあるので」

 高城さんはそう言って、エレベーターの下ボタンを押した。エレベーターが最上階に着き、開くとそこには社長が乗っていた。

「病院まで送るのではなかったのですか?」

 高城さんが驚いた顔で聞いた。

「駐車場まででいいと言われた。それより早く準備しろと一喝された。なんだ、下に降りるのか?」

「はい、式場の打ち合わせに行こうと思いまして」

「おいおい、俺を置いていくなよ」

「社長も行かれますか?」

「当然だろ、俺の結婚式だ」

 そして社長はそのままで、私と高城さんはエレベーターに乗り込んだ。

「日程早められないかな」

「ホテルと交渉してみます。参列者の都合もあるので難しいかとは思いますが」

「身内だけでいい。披露宴は必要ない」

「それでしたら、大幅に短縮できるかもしれません。交渉してみます」

「うん」

 二人の会話を聞きながら、まるで自分とは関係のない話を盗み聞きしてしまっているような気分だ。
 私には選択する権利もないのかな。自分の結婚式なのに。
 いや、これは仕事の一環と思った方がいいのか。感情を入れず、ただ流れに身を任せていればいい。

(……本当にこれでいいの?)

 顔がどんどんこわばっていく。階数が表示される液晶を意味もなくじっと見つめながら、ぎゅっと拳を握りしめた。

 車に乗って着いた先は、都内屈指の最高級ホテル。広い敷地には色とりどりの庭園が広がっていて、上品な噴水が中心となって周囲を取り囲んでいた。
 高くそびえ立つ白亜の建物で、その壁面には品の良い優美な装飾が施されていた。
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