シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「あんたには似合わないって言われて買ってもらえなかったの。可愛いワンピースも全部捨てられちゃった」

 私の暗い過去に、社長は顔をしかめた。

「本当はずっと着てみたかったの。ひらひらした女の子らしい服。ずっと似合わないって言われ続けてきたから、大人になって自分で買えるようになっても着る勇気がなくて」

「誰よりも似合うと思うぞ」

「私に社交辞令は必要ないよ」

 社長に気を使われた。笑いながら、否定する。私に女の子らしい服は似合わない。

「俺はお世辞も社交辞令も言わない。心からの本心だ」

 社長は真顔になって言ったので、私の顔からも笑顔が消えていく。

「ウェディングドレス姿、息を飲むほど綺麗だった。こんな綺麗な花嫁と結婚できるなんて、俺はなんて幸せ者なのだろうと思った」

 驚いて言葉が出なかった。冗談を言っているようには見えなくて、真剣な顔で私の目を見つめて言う社長のセリフがまるで愛の告白に聞こえた。

「あ……えっと……」

 戸惑っている私に、社長は一歩近づいた。

「捺美、俺は……」

 社長がなにかを言いかけたとき、車のクラクションが鳴って一台の車が横に停車した。

「社長、お待たせしました!」

 運転席の空いた窓から陽気な声がした。
 睨みつける社長の顔に、満面の笑顔だった高城さんの顔が曇っていく。

「俺、お邪魔でした?」

「本当にお前は、いつも肝心な所が抜けている!」

 社長は怒りながら後部座席のドアを開けた。

「高城さんは完璧な秘書に見えるけど……」

 私が言うと、社長は呆れるような顔を見せた。

「あいつは適当で調子がいいだけだ。これからわかる」

 後部座席に乗り込むと、高城さんが照れた様子で笑っていた。
 一つも褒められていないのになぜか喜んでいる。たしかにちょっと謎だ。
 車が発進してしばらくすると、急激な眠気が襲ってきた。瞼が重くて開けていられない。何度もカクカクと首が落ちそうになって、ハッとして目を開ける。

(いかん、いかん、今寝たら爆睡して起きられなくなりそう)

 そう自分に言い聞かせて、なんとか起きていようとするのだけれど、途中で首がまったくカクンカクンいわなくなった。
 柔らかくて温かい。社長が側に寄ってきて、肩を貸してくれたのだ。

(社長って意外と優しい人なのかもしれない)

 そんなことをうっすら思いながら、深い眠りに落ちていった。

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