シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 リビングに行くと、ちょうど片付けが終わったところのようだ。食洗器が働く音がしている。
 社長はエプロンを脱ぐと、白いロンTにブラウンのグレンチェックパンツいうシンプルな格好があらわれた。シンプルなのに、というか、シンプルだからこそか、やたらとオシャレに見えるのはなぜだろう。
 上からカジュアルなジャケットを羽織って、車のキーを指でまわした。

「いくぞ」

 中途半端なイケメンが同じ格好で同じことをしたら、かっこつけているように見えて滑稽なかんじになってしまうのに、社長だと自然にかっこいいのはなぜだろう。人間って不公平だなと社長の背中を見ながら思った。
 マンションの駐車場に行って社長がドアを開けたのは、スポーツカータイプの外車だった。ブラックなのでスポーツカー独特の派手さはなく品のよい高級感がある。

「あれ、いつも乗っている車じゃないのですか?」

「あれは仕事用だ」

 なるほど、じゃあこれはプライベート用ってことですか。凄いですねっていうありきたりな感想しか出てこない。
 社長が運転席で、私が助手席に座る。隣同士なのは変わらないのに、ぐっと特別感が出て、なんだか、デートみたいだと思った。

(なにがデートよ。社長はともかく、私はスーツ姿でしょ!)

 と一人で赤くなりながら脳内突っ込みをする。
 運転している社長を見ると、鼻筋の通った横顔と、喉仏と、引き締まった前腕が目に入ってドキドキしてしまった。気持ちを落ち着かせるために会話を振る。

「これからどこに行くのですか?」

「ん、買い物」

「なにを買う予定ですか?」

「お前の服」

「え⁉」

 驚いて社長の顔を凝視した。

「私服とスーツとインナーと、あと化粧品とかも必要か。たくさん買うものがあるから、今日は忙しいぞ」

「え、ええ、ええ⁉ え、それって……」

「えが多いな、何回目だよ」

「私、そんなお金ないですけど」

「お前に出させるわけないだろ」

 社長は呆れた様子で私を横目で見た。
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