シンデレラは王子様と離婚することになりました。
ニヤニヤしながら嫌味を言ってくる。
私は鞄に書類を詰めながら、彼女たちの顔を見ないで返事をした。
「飲み会じゃないです。用事ができたからです」
(私だって仕事が忙しくて飲み会になんか行く暇ないってば)
心の中で毒づきつつ、苛々した気持ちが隠せなくて、乱暴にペンケースを鞄に押し込んだ。
彼女たちがこんな態度になったのは、自分にも責任があると思っている。慣れ合わないし、言いたいことは面と向かってはっきり言ってしまうし、生意気だと思われても仕方がない。
「ああ、彼氏ぃ?」
わざと大きい声で彼女は言った。オフィスにいる男性たちに聞かせるためだ。
「いないですよ」
呆れるように肩をすぼめて言った私を、彼女たちはさらに煽ってくる。
「ええ、なんで? そんなに可愛いのに」
「顔入社だって言われているくらいなのに」
さすがにカチンときて顔を上げて彼女たちを見た。彼女たちは臆することなく、クスクスと笑っている。
たしかに私の出身大学はいわゆるFランと呼ばれている底辺大学で、MARCHでさえ低いと思われている職場なのに、私はかなり特殊な存在だった。
だからこそ、仕事で挽回したいと思っているのに……。
言い返そうと思って顔を上げたけれど、言い返す言葉が見つからなかった。仕事を中途半端に放り出して帰ろうとしているのは事実だったからだ。
「別に何時に帰ったっていいだろ。やることをやっていれば」
悔しくて黙り込む私に助け船を出してくれたのは、同じ部署の佐伯 哲治(さえき てつじ)さんだ。
営業一課の絶対的エース。二十八歳の若さで課長になったほど優秀で、おまけにイケメン。
額に流れた黒髪に、一重瞼の鋭い瞳。口はいつも真一文字に結んでいて、めったに表情は崩れない。黒いスーツはまるで鎧をまとっているかのように見える。
とてつもなく不愛想で仕事に関しては容赦がなくて、ものすごく厳しいことで知られている。佐伯さんの下につく営業事務の女の子は、もって三ヶ月ほどで部署異動を願い出るほどの恐い存在だ。
「人のこと言っている暇があるなら、自分の仕事をしたらどうだ。この前俺が頼んでおいた……」
「ああ! 私、経理部に行かなきゃいけなかったことを思い出しました! 失礼しま~す」
彼女たちはまるで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「佐伯さん、ありがとうございます」
私は鞄に書類を詰めながら、彼女たちの顔を見ないで返事をした。
「飲み会じゃないです。用事ができたからです」
(私だって仕事が忙しくて飲み会になんか行く暇ないってば)
心の中で毒づきつつ、苛々した気持ちが隠せなくて、乱暴にペンケースを鞄に押し込んだ。
彼女たちがこんな態度になったのは、自分にも責任があると思っている。慣れ合わないし、言いたいことは面と向かってはっきり言ってしまうし、生意気だと思われても仕方がない。
「ああ、彼氏ぃ?」
わざと大きい声で彼女は言った。オフィスにいる男性たちに聞かせるためだ。
「いないですよ」
呆れるように肩をすぼめて言った私を、彼女たちはさらに煽ってくる。
「ええ、なんで? そんなに可愛いのに」
「顔入社だって言われているくらいなのに」
さすがにカチンときて顔を上げて彼女たちを見た。彼女たちは臆することなく、クスクスと笑っている。
たしかに私の出身大学はいわゆるFランと呼ばれている底辺大学で、MARCHでさえ低いと思われている職場なのに、私はかなり特殊な存在だった。
だからこそ、仕事で挽回したいと思っているのに……。
言い返そうと思って顔を上げたけれど、言い返す言葉が見つからなかった。仕事を中途半端に放り出して帰ろうとしているのは事実だったからだ。
「別に何時に帰ったっていいだろ。やることをやっていれば」
悔しくて黙り込む私に助け船を出してくれたのは、同じ部署の佐伯 哲治(さえき てつじ)さんだ。
営業一課の絶対的エース。二十八歳の若さで課長になったほど優秀で、おまけにイケメン。
額に流れた黒髪に、一重瞼の鋭い瞳。口はいつも真一文字に結んでいて、めったに表情は崩れない。黒いスーツはまるで鎧をまとっているかのように見える。
とてつもなく不愛想で仕事に関しては容赦がなくて、ものすごく厳しいことで知られている。佐伯さんの下につく営業事務の女の子は、もって三ヶ月ほどで部署異動を願い出るほどの恐い存在だ。
「人のこと言っている暇があるなら、自分の仕事をしたらどうだ。この前俺が頼んでおいた……」
「ああ! 私、経理部に行かなきゃいけなかったことを思い出しました! 失礼しま~す」
彼女たちはまるで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「佐伯さん、ありがとうございます」