シンデレラは王子様と離婚することになりました。
(ええええ~!)

 思わず心の中で絶叫する。うっかり口から出てしまったら、また『えが多い』と突っ込まれてしまう。

「いいのですか⁉ そこまでしてもらって」

「俺の嫁になるからには、これくらい当然だろ」

結婚バンザイ! まさか全て買ってもらえるなんて!
 着の身着のまま、いきなり同棲することになって、前途多難すぎて将来を悲観していたけれど、この契約結婚の話はとんでもなくおいしい話だったのかもしれない。
 ありがたすぎて、社長の顔を見ながら合掌していると、社長が怪訝な目を向けた。

「なにしてんだよ」

「いや、拝んでおこうと思って」

「仏像じゃねぇよ」

 お金持ちってスケールが違うなあ、とつくづく思う。

「あの、選ぶとき、遠慮した方がいいですか?」

「その質問するってことは、遠慮する気ないだろ」

 社長は笑って受け入れている。こんな機会滅多にないというか、もう二度とないと思うので社長に思いきり買ってもらおうと思った。
 社長にエスコートされながらブティックに入ると、高い天窓から柔らかな太陽の光が床に拡がっていた。雑踏や騒音は遮断され、街の喧騒とは異なる特別な空気感を放っている。
 棚には一目でわかるほど上質な生地から仕立てられたワンピースやブラウスが並び、壁にはアクセサリーやバッグがまるで宝石のように端正に並べられていた。
 天井には見事なシャンデリアが飾られていて、二階へと続く螺旋階段を照らしている。
 上品な笑顔を浮かべる店員さんが近寄ってきて、社長となにやら話し始めたので、私は一人で店内を歩きまわった。

(こんな高級なブティック、初めて入った。怖くて値札が見られない)

 ユニクロとかしまむらで十分喜べるのだけどなと思いつつ、お金を出してくれるのは社長なので余計なことは言えない。
 店員さんが社長の周りに集まり始め盛り上がっている。

(なんだろう、店員さんたちが私の方を見て目を輝かせている……)

 社長が奥の部屋へと案内されると、社長の周りに集まっていた店員さんたちが今度は私の方へと寄ってきた。

「こちらのワンピースなんてどうでしょう。エレガントでどんな場面でも映えますよ」

「それでしたら、こちらのバッグが合うと思いますよ」
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