シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 あれよ、あれよという間に試着室へと連れられ、言われるがまま様々な服を試着した。まるで着せ替え人形だ。

「よくお似合いで!」

「スタイルがよろしいからなんでも着こなしてしまいますね」

 なぜかやたらと褒められて、気がついたらレジの後ろには試着済みの山盛りの洋服があった。

(まさか、これ全部購入する気じゃ……)

 もはやなにを試着したかすら覚えていない。最後は、一番よく似合うと言われたロイヤルブルーのワンピースとそれに似合うネックレスやバッグ、そして靴までコーディネートしてもらい、それを着て帰ることになった。
 社長がいる奥の部屋へと入ると、社長は応接室のようなところで優雅にコーヒーを飲んでいた。

「おお、終わったか」

 社長は振り返ると、どこかの令嬢のような姿になった私を見て驚いた顔を浮かべた。

「いかがでしょう」

 店員さんが誇らしそうに私を手で指し示した。

「完璧だ」

 社長は満足そうに頷いた。

(いや、着せ替え人形じゃないのだから)

 と心の中で突っ込みつつ、内心嬉しかったりもした。こんな上質で素敵なワンピースを、ずっと着てみたかった。どうせ似合わないからと諦めていたけれど、社長が『完璧だ』と言ってくれたから少し自信が持てた。
 何着買ったかわからない洋服たちは、今日中に社長の家に届けられるそうだ。恐ろしくて値段は聞けない。たぶん、聞かない方が精神的にいいと思う。
 休憩がてらカフェでランチをして、そこからまた買い物。今度は化粧品や日用品、お皿など生活必需品を購入した。
 全部終わったら、夜になっていた。高級レストランでコースのディナーを食べて、飲み慣れないワインを飲んだらすっかり酔っぱらっていた。車は代行を頼むことにした。

「夜景でも見てから帰るか」

 なんて社長が言うから、いい気分になった私は、社長の腕を組んで、

「いいですね! 歩いて行きましょう!」

 とご機嫌に歩き出した。
 キャンドルが幻想的に灯る街並みの中を並んで歩く。私たち以外誰もいないので、とても気楽だ。

「なんだかデートみたい」
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