シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 と私が言うと、

「デートだろ」

 と社長がさらっと言い放った。

「じゃあ私、初デートだ」

 私の言葉に社長は目を見開いて驚いた。

「この歳で、初デートって引きました?」

「いや、顔がにやけてしまうのを隠せないくらい嬉しい」

 社長の顔を覗き込むと、本当に口元が嬉しそうに緩んでいた。
 すると社長は道の途中で立ち止まった。

「色々と順番が逆だが、これを受け取ってほしい」

 社長は真面目な顔をして私と向き合い、四角いリングケースを差し出した。

(ドラマとかで見たことある。もしかしてこれって……)

 社長がリングケースを開けると、息を飲むほどの大きなダイヤの指輪があらわれた。

「俺と結婚してほしい」

 社長は少し緊張しているような真剣な眼差しで私を見つめた。
 まるで夢の中にいるようだ。お酒でふらふらした頭の中で、ロマンチックなキャンドルに囲まれながらプロポーズを受けている。

「……はい」

 フニャっとした笑みを浮かべて、結婚を承諾する。凄くいい気分だ。
 社長が指輪を取り、私の薬指にダイヤの指輪をはめる。いつリサーチしたのか、指のサイズはピッタリだった。
 左手を顔まで掲げて、指輪をしげしげと眺める。

「うわ~、夢みたい」

 呂律がまわっていない口で呟く。私はずっとへらへらと笑っているのに対して、社長はやけに真剣な表情だ。

「今まで辛かった分、俺が全部受け止めて、絶対に幸せにするから」

「私が辛かったこと、どうして知っているのですか?」

 へらへらしていた顔が曇り、悲しそうな表情を浮かべた私を見て、社長は唇を噛みしめた。
 そして、急に強く抱きしめた。社長の胸の中に顔がうずまる。驚いて固まっている私に、社長は耳元で囁いた。

「嫌なら嫌って言ってくれ。離したくないけど、離すから」

 社長の腕に包まれて、温かくて気持ちよかった。

「嫌……じゃ、ない」

 消えるような小さな声で言った。
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