シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 すると社長はその言葉に呼応するように強く抱きしめたあと、私の顔を両手で挟んで持ち上げた。目と目が触れ合う。鼻先がつくように近い。

「嫌なら、ビンタでもなんでも受け入れる。今なら抑えられる」

 社長の顔はなにかを猛烈に我慢するように辛そうにしていた。その顔はとても色気があって、磁力に引かれるように、気がついたら言葉が漏れていた。

「い……や、では……ない」

 社長はなにかがプツンと切れたように、私の唇に社長の唇を押しつけていた。
 初めての、キス。
 私は目を見開いたまま固まった。どうしていいのかわからなくて、何度もまばたきをする。
 余裕がまったくない社長の姿を見るのは初めてだ。社長は私の体を抱きしめて、いったん唇を離し、私の顔を見た。
 固まりながら、目を閉じずにまばたきばかりを繰り返す私を見て、社長は愛おしそうに笑った。そして、社長から余裕のない緊張感が消えて、再び唇を重ねてきた。
 今度はとても優しくて、柔らかくて、体が溶けそうになるくらい甘いキスだった。
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