シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第五章 モテ男のこじらせ婚活裏話

 俺の名前は、伊龍院 大翔。大企業を経営する家柄に生まれた御曹司だ。そして現在は経営を受け継ぎ社長に任命されている。
 頭も良くて顔もいいし、おまけに実家はお金持ち。なに不自由ない生活で苦労知らずのお坊っちゃんだと世間からは思われているが、なかなか過酷な子供時代だったと思う。
世間的には両親は事故死だと発表されているが、内実はほぼ無理心中に近い。父が運転する車が崖から落ちて、助手席に座っていた母も亡くなった。事故のあった数日前に母の不倫が発覚し、父は激昂していたらしい。
車の中でどんな会話がされていたのかはわからない。喧嘩になって注意力を失った父の運転ミスによる事故なのか、父が意図的に無理心中をはかったのか、それとも精神不安定になっていた母が横からハンドルを切ったのか。
いずれにしても真相は藪の中だし、事故死の方が対面的にはいい。母の不貞を父は責めていたらしいが、父には長年愛人がいて、しかもそれが複数だったらしいから天罰が下ったのだと思う。
両親が死んだのは、俺が小学校に入学してすぐの出来事だった。
いきなり両親がいなくなって、元から大人しい性格だった俺は、さらに内に引きこもることになった。小学校低学年の頃は、ほとんど学校に通えていない。
そんな俺が変わるきっかけになったのは、ある少女との出会いなのだが、本人が全然覚えていない様子なので、ここでは割愛する。
大切に育ててきた一人息子を失った俺の祖父母は、その悲しみを俺に愛情を注ぐことで埋めようとしていた。でもその愛情が少し極端なところがあって、そこでも俺は苦労することになる。
跡取りが俺一人になってしまったので、重圧は相当のものだった。努力する姿を人に見られるのは嫌いなので、さらっとできてしまっているように見せているが、影では死ぬほど努力していた。俺以上に努力してきた人間を、俺は知らない。
祖母は俺が大学生の時に亡くなった。そこから祖父は、経営を俺に任せようと着々と準備を進め、それに応えようと俺も死ぬ気で頑張った。
大学を卒業して四年後、祖父の病気が発覚し経営交代を迫られた。祖父が数年かけて役員を説得し盤石な基盤を作っていたので、持ち上げられる形で社長に就任した。
実質的にはお飾り社長。俺がいなくても会社は揺るがない。
その状況が嫌だった。こんなことのために死ぬ気で努力してきたわけではない。実力で社長の座を取れるくらいの実績が欲しかった。
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