シンデレラは王子様と離婚することになりました。
それからは役員の反対を押し切り、プロジェクトを成功させ株価を一〇%引き上げることに成功。そこからも着々と業績を上げていき、祖父が社長の頃よりも経営利益は上がっている。もう誰も、俺に異議を唱える者はいない。
そんなある日のことだった。
祖父の容態が悪化し入院することになった。急いで病院に駆けつけた俺は、祖父の余命を聞かされる。余命、一ヵ月とのことだった。悩んだ結果、祖父にその事実を告げると、予想外の言葉が返ってきた。
「大翔、一ヵ月以内に結婚しろ」
「はい?」
政治家なども使用する特別豪華な病院の個室で、祖父と二人きり。祖父はベッドの背部を上げ、横になりながら言った。余命一ヵ月とは到底思えないほどの眼光の鋭さだった。
「わしの心残りは、大翔の結婚だけだ。本当は孫の顔も見たかったが、我儘は言えん。わしが死ぬ前に結婚式を挙げろ」
もう充分な我儘を言っているのに、だいぶ譲歩したような口ぶりだ。
「いやいや、なにを言っているのですか。無理ですよ、付き合っている相手もいないのに」
俺は祖父に敬語だった。それは昔からだ。愛情深く育てられたが、甘えることはできなかった。
「お前なら望む相手とすぐに結婚できるだろ」
「いや、そうでもないですよ」
一瞬、ある女性の顔が浮かんだが、すぐに頭から消した。
「なんだ、片思いなのか?」
「そういうわけでもなくて……」
どう説明していいのかわからなくて言葉を濁す。
「まあ、いい。ややこしそうだ。その女性は諦めて縁談の話が来ている中から探せ。お前さえ相手を決めれば先方は喜んで式を挙げるだろう」
「無理です。いくらあなたの頼みだからって無理なものは無理です」
「最後のじじ孝行だろう。結婚してしまえば、愛なんて後からついてくるのだ。ばあさんとだって見合いだったのだぞ。大翔の結婚を見届けないうちにあの世にいったら、ばあさんに怒られるだろう。大翔を頼むって遺言を受けているのだから、わしは」
祖父と祖母は大変仲のいい夫婦だった。自分たちが見合いだから、見合い婚でも愛のある幸せな結婚生活が送れると思っている。
だが、同じく見合い婚だった俺の父と母の結末がどうだったかは忘れてしまっているらしい。さすがに俺も、そのことについては触れない。
「いや、だからといって急すぎですよ。しかも俺、まだ二十九歳ですよ?」
そんなある日のことだった。
祖父の容態が悪化し入院することになった。急いで病院に駆けつけた俺は、祖父の余命を聞かされる。余命、一ヵ月とのことだった。悩んだ結果、祖父にその事実を告げると、予想外の言葉が返ってきた。
「大翔、一ヵ月以内に結婚しろ」
「はい?」
政治家なども使用する特別豪華な病院の個室で、祖父と二人きり。祖父はベッドの背部を上げ、横になりながら言った。余命一ヵ月とは到底思えないほどの眼光の鋭さだった。
「わしの心残りは、大翔の結婚だけだ。本当は孫の顔も見たかったが、我儘は言えん。わしが死ぬ前に結婚式を挙げろ」
もう充分な我儘を言っているのに、だいぶ譲歩したような口ぶりだ。
「いやいや、なにを言っているのですか。無理ですよ、付き合っている相手もいないのに」
俺は祖父に敬語だった。それは昔からだ。愛情深く育てられたが、甘えることはできなかった。
「お前なら望む相手とすぐに結婚できるだろ」
「いや、そうでもないですよ」
一瞬、ある女性の顔が浮かんだが、すぐに頭から消した。
「なんだ、片思いなのか?」
「そういうわけでもなくて……」
どう説明していいのかわからなくて言葉を濁す。
「まあ、いい。ややこしそうだ。その女性は諦めて縁談の話が来ている中から探せ。お前さえ相手を決めれば先方は喜んで式を挙げるだろう」
「無理です。いくらあなたの頼みだからって無理なものは無理です」
「最後のじじ孝行だろう。結婚してしまえば、愛なんて後からついてくるのだ。ばあさんとだって見合いだったのだぞ。大翔の結婚を見届けないうちにあの世にいったら、ばあさんに怒られるだろう。大翔を頼むって遺言を受けているのだから、わしは」
祖父と祖母は大変仲のいい夫婦だった。自分たちが見合いだから、見合い婚でも愛のある幸せな結婚生活が送れると思っている。
だが、同じく見合い婚だった俺の父と母の結末がどうだったかは忘れてしまっているらしい。さすがに俺も、そのことについては触れない。
「いや、だからといって急すぎですよ。しかも俺、まだ二十九歳ですよ?」