シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「わしは二十歳で結婚しとる。息子は二十三歳だ。お前は遅すぎる」

「時代が違います」

「つべこべ言うな。伊龍院家の長男として義務を果たせ」

 結婚が義務っていつの時代の話だよと思いながらも、いったん言い出したら聞かない人だ。なにがなんでも絶対にやり遂げる。相手がどう思おうがお構いなしだ。
 ここで無理だと押し通したら、祖父が勝手に相手を決めて結婚の段取りを組むだろう。
 さすがに結婚の相手は自分で決めたい。いつかは結婚しなければいけないとは思っていいた。こういう機会が必要なのかもしれない。

「わかりました。結婚相手を決めてきます」

 祖父はとても満足気な顔をして頷いた。


 会社に戻って、高城に見合い写真とその女性のプロフィールを全部持ってこいと指示すると、高城は驚きと好奇心に満ちた顔で食いついてきた。

「社長、結婚するんすか⁉」

 秘書の高城は、俺と二人きりになると、運動部の後輩のようなふざけた敬語で話してくる。
 優秀なのだが、根は飄々とした軽い性格だ。俺が見た目ほど怖くないと分かると、どんどん素を出してきた。まあ、素の高城の方が俺は好きだが。

「ああ」

 素っ気なく返事をすると、高城は大量の見合い写真を抱えて持ってきた。仕事が早いな。

「初恋の子はどうするのですか?」

 ストレートに痛いところを突いてきた。高城には隠していてもすぐ気づかれる。

「あれは、ただの、初恋というか、気になる子というか……」

「話しかけてすらいないですもんね。社長って意外と奥手っすよね」

「俺はお前と違って慎重派だからな」

「もういっそのこと、その子に結婚を申し込んだらどうですか?」

「無理だろ、相手は俺のこと、覚えてすらいないのだぞ? それに、恋愛と結婚は別だ」

 そう言って、大量の見合い写真に目を通す。これまでは開いてもいなかった。

「ふ~ん、御曹司は大変なんすね。恋人を次々に変えていた社長が、あの子と再会した途端、ぴたっとお遊びがなくなったから、本気だと思っていたのに」

「遊びっていうと語弊があるからやめろ。単純に続いた人がいなかっただけだ」

「まあ、俺は社長が誰と結婚しようがいいですけど。それより、ずいぶん焦っている様子ですけど、結婚の期限でも決まっているのですか?」

「ああ、一ヵ月以内に式を挙げる」

「一ヵ月以内⁉」
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