シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「待て、こらあ!」

 怒っているわけではないのだが、逃げられていると思うとつい怒気が荒くなった。

(なぜ俺から逃げる!)

 必死で彼女を追いかける。掴まえたい、俺は彼女をずっと求めていたのだ。
 感情のタガが外れたのがわかった。彼女が落とした靴のところまで追いかけると、俺はいったん足を止めて、靴を拾った。
 シンプルな黒のリクルートパンプス。
 下を見ると、もの凄い速さで駆け下りている。これ以上追いかけても追いつかないかもしれない。

(一か八か、エレベーターを使おう)

 誰もいないので、エレベーターは二十三階で止まっているはずだ。ボタンを押せばすぐに到着するだろう。疲れてきた人間の足よりも、エレベーターの方が早く降りられるはずだ。
 そう判断し、階段を下りるのを辞めて、エレベーターへと急いだ。
 予想通り、エレベーターはすぐに来て、一階まで降りることができた。

(よし、ここで待っていれば、あいつが来るはずだ)

 だが、しばらく待っていても誰も降りてこない。嫌な予感がして階段を見上げると、階段には誰もいなかった。
エレベーターより先に降りた? いや、時間的にも俺が先に降りたはず。まさか、非常階段⁉
 非常階段の方にまわるも、そこにも人の姿はなかった。

(やられた!)

 急いでエントランスに行き、待機していた車に乗り込む。ただならぬ様子で走ってきた俺を見て、高城が声をかけた。

「どうしたのですか、なんですか、その靴」

「あいつのだ、逃げられた」

 息を荒げ、悔しそうにしている俺に、高城はわけがわかないと言った様子で眉をひそめる。

「あいつ? もしかしてあの子のことですか?」

「説明は後だ! 探せ、まだ近くにいるはずだ!」

 高城はハッとして、すぐにエンジンをかけた――
 
 ――数日後、俺は彼女に正式にプロポーズをした。
 都心の街並みをロマンチックに演出し、人が通らないように交通整備も手配した。
 その甲斐あって、俺と彼女の距離は一気に縮まったのだが……。
 その次の日に、南米で中規模の地震が発生し、支店の建物にも大きな損害が出た。従業員の安否確認や現場視察のため急遽現地に向かうことに。
 そして現地で色々なトラブルが起き、結局日本に帰国したのは結婚式の前日となったのである。

< 49 / 124 >

この作品をシェア

pagetop