シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第六章 波乱から始まる新婚生活

こんなことってあるのだろうか。いかんせん、恋愛経験がないから私には判断できない。
 社長からロマンチックなプロポーズを受けて、いいかんじのムードになって、なんか流れでキスしちゃって……。
たしかにあの時は、ほろ酔い気分だった。でも、酔いに任せて人生初キスを捧げるほど、私は愚かではない。理性を失っていたわけでもないし、酔っぱらった勢いでキスを許したわけでもない。
相手が社長だったから。全てを受け入れてくれるような優しさに惹かれていた。契約結婚だけれど、互いに愛情のようなものは芽生え始めていると感じていた。それなのに……。
結婚式前日まで花嫁を放っておいて海外出張に行っちゃうってどういうこと⁉
災害による視察だから仕方ないのは理解できるけど、連絡もないってどういうこと⁉
キスした次の日。
朝目覚めて、ドキドキしながらリビングに行ったら、書き置き一つ残して婚約者はいなくなっていた。
どんな顔して会おうとか、どんな会話をしようかとか、色々頭の中でシミュレーションしていたのに! これから恋が始まる予感に胸を躍らせていたのに!
式場の都合がついて、結婚式の日程が早まって、まさかの一週間後に断行することになって、もうバッタバタで大変だったのに、当の本人がいないってどういうことよ!
結婚式前日にようやく帰国することができて、『会いたい』とか『空港に迎えに来てほしい』とか言われたけど、無視してやった。
忙しいし、大変だったのかもしれないけど、結婚式前日まで私からの連絡無視していたのは社長の方だから! 無視され続けた気持ちを少しは味わうがいいわ!
そして私たちは、久しぶりの再会を果たしたというのに、一言も話さずに結婚式当日を迎えた。
ふてくされた表情のままウェディングドレスに身を包む。
……正直、もう怒ってはいない。腹が立っていたのは事実だけれど、社長の顔を見たら急激に怒りが萎んでいった。
でも、振り上げたこぶしをどう仕舞えばいいのかわからなくなってしまった。
『私は怒っていたのだからね』というアピールもしたい。そして久しぶりに会えて嬉しいという照れ隠しでもある。
 あまりにも恋愛経験値が低すぎて、というかなさすぎて、こういう時、どうしたらいいのかわからない。
 そして戸惑っているまま、ついに結婚。なんだ、これ。
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