シンデレラは王子様と離婚することになりました。
離婚前提で、形だけの結婚式なのに、どうして私たちは恋人のように抱き合っているのだろう。

「今日は、楽しもうな」

「……うん」

 理由はどうあれ、私たちの結婚式。社長の言う通り、余計なことは考えずに楽しもうと思った。
 そして、社長のおじい様も式に参加できて、無事にミッションクリア。
 社長の両親は亡くなってしまっているから式に参加できないのは仕方ないとして、私の父も不参加なのは異例だった。
 どうして不参加なのかというと、理由はシンプルで結婚を伝えていないから。
 突然家に帰ってこなくなった娘が、結婚式を挙げているなんて知ったら卒倒するだろう。しかも相手は大企業の御曹司。
 高城さんやウェディングプランナーの方は、親に知らせずに結婚するなんて良くないと随分説得されたけれど、こればかりは私も引くに引けない。
 父に知らせたら、継母も継娘も出席するだろう。あの二人のことだから、私の結婚が許せなくてぶち壊そうとする可能性もある。
 もう二度と顔を見たくない。父にも会いたくない。会ってしまったら、自分の中のなにかが壊れてしまいそうで。これは、他人には説明できない感情だ。
 家族との強烈な亀裂を味わった人でなければ、どんなに言葉を尽くしても共感することはできないと思う。
 社長は海外に行っていたので、この件についてどう思っているのかは不明だ。できればずっと、触れずにいてほしい。
 そして結婚式のあと、私たちは婚姻届けを提出し、正式な夫婦となった。


「あ~、疲れたぁ」

 結婚式が終わって、ようやく家に帰れた頃には夜になっていた。
 リビングのソファにもたれかかる。社長が海外出張でいない間、一人だったのですっかり自分の家のようにくつろいでしまっていた。実家では自分の部屋以外くつろぐことができなかったので、とても居心地がいい。

「次は新婚旅行か?」

 ご機嫌な様子で、社長が隣に座ってきた。ソファは大きいのに、やたら近い。私は社長との間に、一人分のスペースが空くように腰を浮かせて距離を取った。

「なんのために?」

「どこにだって連れて行ってやるぞ」

 そう言われると心が動くけれど、さすがに新婚旅行する意味がわからない。
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