シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「私たち、契約結婚でしょ。おじい様が亡くなったら、離婚する予定でしょう」

 縁起でもないことなので、あまり口に出したくないけれど、言わずにはいられない。こうやって一緒にいると勘違いしてしまいそうになる。好きになってしまって、傷つくのが怖い。

「……まだ怒っているのか?」

 社長は悲しそうな顔で言った。

「そうじゃなくて!」

 慌てて否定する。

(そうじゃなくて……。離婚前提なのに、仲良くなったら辛いじゃない)

 あのキスの意味をいまだに聞けずにいる。
 結婚式でもキスをしたけれど、あれは儀式上のものだった。一瞬軽く触れるだけの、挨拶のようなもの。
 もしかしたら私が結婚式で緊張して失敗しないための練習のためのキスだったのかなと今では思っているくらいだ。あのキスに意味を持たせたら、勘違い野郎ってバカにされるのがオチかもしれない。

「……そうじゃなくて、意味のないことはしたくないの」

 私は社長から視線を逸らし、目線を下げた。

「意味はあるだろ。でも、まあ、無理強いはしない」

 意味はあると断言してくれて、なぜかほっとしている私がいる。
 新婚旅行は意味のないことだと言ったのは私なのに……。

「社長は……」

 口に出そうとして言葉に詰まる。聞きたいことはたくさんある。たとえば、社長は私と新婚旅行に行きたいの? とか、社長にとって私ってなに? とか。でも、聞いたところで自分が望む答えと逆のことを言われたら落ち込むだろうなともわかっている。

「結婚したのに、社長呼びはおかしいだろ」

 思わぬ指摘に話題が逸れて、ちょっとほっとした。

「確かに。なんて呼べばいい? 大翔? ひろ君? ひーちゃん?」

「急に距離詰めた呼び方だな。別に好きな呼び方でいいけど……」

「じゃあ、ひーちゃんにしよう」

「大翔で」

 社長、もとい、大翔は真顔でひーちゃん呼びを拒否した。

「え~、好きな呼び方でいいって言ったのに」

「本気でそっちを選ぶとは思わないだろう。会社でひーちゃん呼びはさすがにまずい」

 ひーちゃん呼びを嫌がっているのがわかるので、つい意地悪したくなる。

「じゃあ、二人だけの時にするから」
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