シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「ええ……」

 大翔はあきらかに嫌そうな顔を浮かべているが、拒否はしない。その反応がなんだか楽しい。

「ひーちゃん」

 語尾にハートがつくようなかんじで呼んでみた。すると、大翔はすごく照れくさい表情を浮かべながら、でも本音では不本意だと思っているのがありありと伝わってくる。ちょっと満更でもなさそうなところがより面白い。

「ひーちゃん、なんか嫌そうだね」

「家の中ではギリ許せるが、外では勘弁してほしい」

 大翔は顔を赤くさせながら、最大限の譲歩を見せた。

「いや、私は家の中でもきついわ」

「は?」

「呼んでみて思ったけど、イタいよね、高校生カップルじゃあるまいし」

「お前、俺で遊んだな?」

 ヤバい、バレた、という顔を浮かべる私に、大翔は私から目を据えたまま外そうとしなかった。

「いい性格しているじゃないか」

「ありがとう、褒め言葉として受け取っておく」

 なんだか嫌な予感がして距離をとろうとすると、大翔は逃がさないとばかりに私たちの間に挟まっていたクッションをどけて、一気に距離を詰めてきた。そして……。

「きゃー、やめてぇ!」

 お腹や脇の下あたりをコチョコチョと攻撃してきた。くすぐったくて、思わずソファに横たわる。なおも攻撃の手を緩めない大翔は、私の上に覆いかぶさるような体勢になった。
 あれ、なんか、この体勢ちょっと……。
 気がついたら押し倒されるような恰好になっていて、大翔と目が合い、気まずい雰囲気が流れる。
 大翔は私をくすぐっていた手を止めて、じっと私の顔を見下ろした。

「捺美……」

 普段はお前呼びのくせに、こういう時は名前で呼ぶところ、ずるいと思う。心拍数が否応なしに上がっていく。
 だんだんと顔が近づいていく。どうしよう、これ、キスされる。
 目が泳いで、戸惑っている私を察して、大翔が優しく囁く。

「嫌か?」

 また、この質問。絶妙にずるい問いかけ。
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