シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 私の返答に、動揺していた佐伯さんの顔がいつもの冷静な顔に戻った。

「……工藤がなにかを抱えているってことは薄々気がついていた。実家が原因だったのか」

「お父さんと再婚相手、その連れ子の家事も全部私がやらなきゃいけなくて。だからいつも定時で上がっていました。ご迷惑おかけしていましたよね、すみませんでした」

「いや、それは構わない。しっかり仕事してくれていただろう。俺は言葉がきついし、いるだけで圧があるって言われるから、俺の下で働くのはきついだろうに、頑張ってくれて感謝しているくらいだ」

 意外だった。佐伯さんがそんな風に思っていたなんて。

「俺がもっと前に、工藤の抱えているものを聞いていれば、こんなことにならなかったのに」

 佐伯さんは悔しそうに言った。

「いやいや、実家のことはプライベートなことなので、佐伯さんの手を煩わせるわけには……」

「俺にも工藤一人くらい養えるだけの経済力はある」

 佐伯さんは、私の話を遮って、力強く言った。
女性一人くらいというか、家族を十分養えるだけの経済力はあるでしょうよ。でも、それとこれは話が別では?

「佐伯さん、なにを言っているのですか?」

「離婚したら俺のところに来ればいい」

「はい?」

 わけがわからなすぎる。佐伯さん、驚きすぎて頭がおかしくなったのかと疑うくらいだ。しかも、ものすごく真面目な表情で切羽詰まった感すら漂っている。

「あの、佐伯さん、そういう問題じゃなくて……」

 もしかしたら佐伯さんは私のことを、捨てられた野良猫みたいに思っているのではないだろうか。人間だし、一応女性なのだけど……。

「離婚して住むところがなくなったら困るだろう」

「そうなったら一人暮らしをします。そこの援助はしてもらえると思うので」

「なるほど、そうか。まあ、そこまでのケアがなければ、結婚してすぐ離婚なんて決断しないか」

 佐伯さんは考え込むように、顎に手を当てていた。
ついでに奨学金も完済してもらいました、なんて言ったら呆れられそうだから言わないでおこう。
 人に話して改めて客観的に契約結婚のことを考えると、この結婚は私にとっては利益が大きいけど、大翔にとっては損ばっかりな気がする。
 やたらとお金のかかる嫁をもらって、自身にバツがつくなんてかわいそうだ。
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