シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「工藤の抱えている問題はわかった。これからは、俺に頼れ」

「え、いや……」

 大翔に頼れなくなったら佐伯さんに、なんて男を利用する悪女みたいじゃないか。そんな男に依存して生きていく生き方はしたくない。離婚したら、心機一転、仕事に全力投球して自分で人生を切り開いていくのだ。
「佐伯さんの気持ちはありがたいのですが、私は自分の力で生きていけます。ただ、社長と離婚したら職場に居づらくなるかもしれないので、サポートしてくれたら嬉しいです。そういう意味で、俺に頼れと言ってくれたのなら、ありがたく頼らせていただきます」
 にっこりと笑顔で言った私に、佐伯さんは何かを言いたそうだったけれど、言葉を飲み込んで「わかった」とだけ口にした。

 家に帰ると、すでに大翔は帰ってきていて、キッチンで一生懸命料理に奮闘していた。

「おかえり、ちょうど飯が炊きあがったところだ」

「え、作ってくれたの?」

「料理を覚えようと思って。この前俺に夕飯作ってくれただろ? 嬉しかったから、俺も料理を覚えようと思って」
 なんて甲斐甲斐しい。ありがたすぎて、感動して言葉を失っていると、大翔が手際よくテーブルに料理を並べていく。
 エビチリに、油淋鶏、ふかひれスープ。
まてまてまて、私より本格的じゃないか。

「大翔って普段料理しないのだよね?」

「まったくしない。料理って手間かかるな。面白いけど、毎日作るのは大変だってわかったよ」

 大翔は苦笑いしながら言ったけれど、料理で失敗したならともかく、このレベルのこのクオリティーのものを作り上げたのだから凄い。
 なにをやらせても一流で、器用な人って羨ましい。
 なんだか凄く尽くされているような気がするのは気のせいだろうか。
 二人でビールを飲みながら、大翔の手料理を食べる。会社から疲れて帰ってきて、ご飯を作って待っていてもらえるなんて、幸せすぎて頬が緩む。

「今日は遅かったな」

「うん、会社の人と話していて」

 大翔は手を止めて私を見た。

「男?」

「そりゃね、上司だから」
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