シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第八章 すれ違い三角関係勃発⁉

「や……ダメ、大翔……」

 捺美の黒くて艶やかな長い髪がベッドの上で波打つ。
 長いまつ毛に縁取られた大きな瞳が潤み、物憂げに俺を見つめている。小さな顔の頬が赤く染まり、透き通るような白い肌は滑らかで弾力がある。
 手を絡め、唇を貪る。抑えきれない欲望をぶつけるように、捺美を強く抱いた――

「……って俺は、なんて夢を見ている!」

 誰もいない部屋で、一人ベッドから飛び起きた俺は声を上げた。
 ハッとして思わず自分の口を手で抑える。

(聞こえてないよな?)

 俺の部屋には誰もいないが、俺の家にはアイツがいる。さきほど夢に出てきた女性だ。
 欲求不満もここまでくると、いっそ清々しい。ベッドに誘うも、見事に断られたので、夢に出てきてしまったらしい。
 捺美への想いは日毎に増している。どんな女性と付き合ってもすぐに別れてしまっていた俺なのに、捺美への気持ちは本物だとわかる。
 別れた幾人もの元カノは、一緒にいるのが億劫で、我儘をきくのも面倒くさい。会うことを極力減らすために、仕事を理由に断り続け、それでも長く続かなかった。
 それが、今や、一分一秒でも早く家に帰って捺美に会いたいし、一緒にいる時間が楽しくて仕方がない。さらに、どんな我儘でもきいてあげたいし、むしろ言われなくても率先して尽くす。
 同じ男かと疑うほどの変わりようだ。自分でも好きな気持ちが抑えきれない。
 それなのに、人生とはままならないもので、他の女性は望んでいなくても寄ってくるのに、一番欲しい女性は手に入らない。
 こんなに好きになった女性と結婚できたことは幸運だが、本物の夫婦にはなれていない。夫婦どころか恋人同士にもなれていない。
 しかも離婚前提の契約結婚。絶対離婚なんてしたくない。誰だ、離婚前提なんて言ったの。俺か。
 このままシレっと結婚生活を続けていくにはどうしたらいいか。
 既成事実を作って、離婚するのは大変だから結婚生活を続けていこうという風に持っていって、気がついたら本物の夫婦になっていて、子どもができて幸せな家庭を築いて……という風になるのが理想だが、現実は甘くないらしい。
 キスはいいが、それ以上は拒まれる。
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