シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 当初の手は出さないという約束を華麗に反故しているわけだから、これ以上は強制できない。
 でも、キスはいいなら俺にも望みはあると思っていたのに、それ以上はダメ。
 ……どういう基準だ? 俺って、どういう対象?
 捺美の考えていることが全然わからなくて、そんなところすら魅力で、とにかく全てが可愛くて、どんどんハマっている。
 利用されていようが、俺のことなんて踏み台としか思っていなかったとしても、それすらも構わない。捺美に踏み台にされるなら本望だ。ヤバいな俺。
 朝、二人で出勤すると、捺美は「じゃ」と軽く言って、早々に自分のオフィスへと向かっていく。
 最初の頃は、社内での好奇な目線に戸惑っていたようだが、今では華麗にシャットアウトして、自分の仕事に集中しているようだ。
 身体は華奢で、女優なみの透明感と可愛らしい見た目に騙される者も多いだろうが、捺美の内面は男前だ。そんじょそこらの男よりも、我慢強く責任感があり素早い決断力も持っている。
 俺が守ってあげなくても、自力で生き抜けるだけの胆力がある女だということは分かっている。わかってはいるが……。
 社長室に入り、デスクチェアに座って、最初に目を通す報告書は、昨日の捺美の行動だ。
 婚約が決まってから、営業事務のオフィスには捺美の行動をチェックし、周囲からの嫌がらせを阻止するスパイのような役割を派遣している。

「なにを朝から熱心に読んでいるかと思ったら、また奥さんに関する報告書ですか。愛が重すぎてキモいっすよ」

 高城が応接室のソファに座りながら言った。

「愛する妻が困っているのを助けてあげるのは夫として当然の責務だろう」

「バレたら離婚されますよ」

 高城を思いきり睨みつける。バレなくても離婚の危機があるだけに、高城の言葉はグサっと胸に突き刺さる。
 スパイを派遣して分かったことだが、どうやら捺美は入社してからずっと同僚たちから嫌がらせをされていたらしい。
 理由は美人だから。なんていう浅はかで愚かな理由だ。
 怒りに震えて、捺美を虐めていた奴らを全員クビにしてやろうかと思ったが、証拠もないし、そんな個人的な理由で辞めさせることは道義的になしだろうという高城からのアドバイスもあり踏みとどまることができた。
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