シンデレラは王子様と離婚することになりました。
  壁からこっそり愛しの妻を見てニヤニヤしていた俺は、急に後ろから話し掛けられたので、驚いて振り返った。
 背も同じくらいで体格もいい男がそこにいた。地味でヌボっとした雰囲気だが、顔が抜群にいい。目力ある奥二重の瞳で見つめられると、男同士だというのに息を飲む迫力だ。
 このイケメンは……。

「佐伯……哲治」

 俺が小さい声で呟くと、佐伯はペコリと頭を下げた。

「社長に名前を覚えていただいていたとは光栄です」

「俺は全社員の顔とフルネームを覚えている」

「さすがです」

 なんだ、この男。どうして俺に声をかけた?
 高城の言葉が脳裏に浮かび、必要以上に警戒してしまう。

「なんの用だ、俺は可愛い妻を盗み見するのに忙しい」

 高城が側にいれば『うわ、キモ』と言われそうだが、あいにく誰も俺にツッコミをできる者はいない。

「ああ、そうですね。工藤さんはずっと見ていたくなる可愛さがありますよね」

 佐伯は苦笑いするどころか、俺の発言に乗っかってきた。
 これは冗談で乗っかってきているのか、天然で言っているのか、どっちだ⁉

「君は捺美の直属の上司だよな?」

「はい、サポートしていただいています」

「ずっと一緒に仕事ができていいな」

 思わず本音が漏れる。すると……。

「はい、癒しです」

 佐伯は、遠くにいる捺美の姿を、目を細めて見つめながら言った。
 まてまてまて。なんだ、これはマウントか⁉
 新婚だぞ、俺たち。しかも社長であり、夫である俺にマウントとるっておかしいだろ。
 よし、お前がそうくるなら俺も盛大にマウントをとってやろう。コテンパンにしてやる!

「まあ俺はプライベートの捺美の顔も知っているからな。あいつはスッピンも可愛い、凄いだろ」

「元々、化粧薄いですしね」

「捺美は料理も上手い! 肉じゃがなんて絶品だったぞ!」

 佐伯は少し悔しそうな表情を浮かべるも、すぐに真顔になった。

「義務で作ってもらってもね。愛があれば別ですが」

 佐伯の言葉には棘があった。明らかに俺を攻撃している。
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