シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「初恋だからって幻想を抱きすぎですよ。魅力的な女性っていうのは、そういうことを意図せずしてしまうものなのですよ」

 高城が言うと、なぜか説得力がある。反論する言葉が思い浮かばずにいる俺に、さらに高城は畳みかける。

「邪魔になりそうな人は消してしまいましょう。とはいえ彼にいなくなられるのは会社にとって大きな損失となるので、そうですね……。海外の支店長に昇進させるのはどうでしょう! アメリカ、イギリス、フランス、台湾。赴任場所を選べるなら文句は出ないでしょう。海外赴任は彼のキャリアにとっても大きな財産になる。断る理由がありません」

「そんな個人的な理由で海外の支店長を交代できるか」

「次期支店長候補の副支店長という立場なら現地でも問題ないでしょう。現支店長にもそれなりのポストを約束すれば喜んで教育すると思いますよ」

「いや、でも……」

「これは会社にとってもメリットのある話です。日本にいたら彼は年齢的に課長職以上のポストは与えられない。才能を埋もれさせてはいけないと俺は思います」

 もっともな言い分に心が揺らぐ。

「南米の支店長にするのは?」

 俺の提案に、高城が声を出して笑った。

「俺より悪賢いこと言いますね! この前南米に行って殺されかけたじゃないですか!」

「いや、本当にあれは危険だった。本気で死ぬかと思った」

「空港で拉致されたのですよね。お金を持っているように見えたから」

「そう、現地の男数人がかりで車に乗せられて、携帯も財布も鞄もパスポートも全部持っていかれて、まったく知らない山奥に放り出された」

「よく生きて帰ってきましたよ。しかも結婚式ギリギリに帰国するってさすがですよね」

「執念だな。これ逃したら捺美と結婚できないって思ったから」

 山奥に放り出された俺は、なんとか自力で南米の支店に辿り着き、その後支店長を引き連れて大使館に行き俺の身分を証明した。
 この事件が公になれば国のイメージダウンは避けられないだろうと脅し、支店の復旧工事を最優先で行うことと、俺の早期帰国を条件に取り引きした。
 支店はそこまで大きな損害はなかったのだが、電気やガスのライフラインの復旧ができず困っていた。そこで俺が大使館と話をつけ、行政を味方につけて工事日程が早まったので現地の支店長は大変喜んでいた。
 現地の視察に来ておきながら、拉致されて支店長の余計な仕事を増やしたわけだから、それくらいはやらないと来た意味がない。
 結果的に無事に帰ってこられたとはいえ、トラウマ級の出来事だ。
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