シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 しかも帰ってこられたのに、捺美は連絡をずっと無視されたとご立腹だった。高城は、俺の安否が不明なことを当然把握していたが、不安がるといけないからわざと黙っていたそうだ。
 世の中、最大の幸運もあれば、悲運もある。そういえば、この話はまだ捺美にはしていないことを思い出した。

「いいではないですか、南米。今、大変な時期だから優秀な人材が来てくれたら喜ぶでしょう」

「冗談だよ」

 高城はつまらなそうに口を尖らせた。

 その日の夜は、捺美と一緒に夕飯を作ることにした。

(義務ではない。一緒に仲良く作っているからな)

 心の中で佐伯に毒つきながら、捺美とイチャイチャしながら料理を作る。

(この姿を見せてやりたいわ!)

 謎の敵対心を募らせている。俺の方が何歩もリードしているのに、メラメラと沸く闘争心と焦燥感はなんなのだろう。

「もう、今日は本当にびっくりしたよ。オフィスにまで来るから。そういえば何しに来たの?」

「え? いや……」

 じゃがいもを剥いていて手が止まる。
 捺美の仕事姿をこっそり覗き見していた、なんて言ったら、『二度と来るな』って言われるだろうし、佐伯と捺美の関係を怪しんで……なんて言ったら、嫉妬する見苦しい男だって思われそうだし。

「佐伯って人が、仕事できるって聞いたから、直接見てみたいと思って」

「え⁉ だから佐伯さんと話をしていたの⁉ てっきり大翔が私を覗き見しに来たと思っちゃった!」

 苦笑いで返す。覗き見していたのは紛れもない事実だが、是とも否とも言っていない。

「やだ、私、邪魔しちゃった。佐伯さんは本当に優秀な方よ。冷静で的確、決断力も早いし、効率もいい。不愛想で怖そうに見えるけど、本当はとても優しいの」

 捺美から佐伯のことを褒める言葉を聞けば聞くほど、佐伯に対する評価が下がっていくのはなぜだろう。あいつマジで南米に飛ばしてやろうかな。

「へえ、でも厳しいのだろ。パワハラで何人もの女子社員を異動させたとか」

 本当は、佐伯に振られたから異動願いを出したらしいが、あえて捺美には事実は告げない。
『パワハラするなんてサイテー』って思われるがいい。
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