シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 殺人未遂事件なみ、といったら捺美を加害者にしてしまうので表現としては適切ではないが、俺の中ではそれくらいの大事件だったのだ。
 ショックすぎて、魂が抜けた状態で出社した。でも、捺美にはかっこ悪いところは見せたくないので、精一杯いつもと変わらない状態であるように努めた。
 だが、社長室に着くと、膝から崩れ落ちるように、応接室のソファに倒れ込んだ。

「社長、大丈夫ですか?」

 さすがの高城も、いつものふざけた様子を封印して、心配してくれた。

「大丈夫じゃない。今日は仕事できない。早退したい」

「ダメですよ、午後に会議がありますからね。あと、明日締め切りのものがいくつか」

「鬼だな。俺に人権はないのか」

「ないです」

 言いきりやがった。俺は高城を睨みつけた。
こいつが心配しているのは、俺の体や心じゃない、仕事だ。

「どうしたのですか、離婚したいとでも言われましたか?」

 図星すぎて、また心を抉られる。

「……離婚したいじゃない、離婚しない? だ」

「同じようなものじゃないですか」

 再び俺は高城を睨みつける。目の前でこんなに人が傷ついている姿を見ながらも、さらに傷を抉ってくるとは、サイコパスだな。

「しかしながら、離婚の話まで出たとは、これはもう末期ですね」

「おかしいと思わないか? 最近までイチャイチャしていたのだぞ。それが急に冷めたかんじで離婚を切り出すなんて……」

「そんなの理由は一つに決まっているじゃないですか。男ですよ。他に男ができたのですよ」

『そんなわけない!』とは言えなかった。むしろ、その線しか考えられないほど、納得する意見だった。

「佐伯か……」

 俺はボソリと呟いた。
 あんの野郎、真面目で不愛想な顔しておきながら、女たらしめ。

「決めたぞ、高城。佐伯を海外に飛ばす」

 俺はむくりと起き上がって高城に告げた。

「おお、ついに決めましたか」

「もうなりふり構っていられない。アメリカだろうが、フランスだろうが、佐伯が思わず飛びつくような好条件を提示しろ。半年だろうが一年だろうが短くても構わない。とにかく、捺美から奴を引き離す」
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