シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 決意にみなぎった俺を見て、高城はにっこりと笑って言った。

「提案しておきながらアレですけど、卑怯ですよね」

「言うなよ……」

 自分でも思っていたことなので、胸にグサリときた。
 
 海外転勤の話は、その後すぐに佐伯に伝えられた。
 佐伯がいなくなると国内営業が回らなくなると部長が難色を示していたが、佐伯にばかり仕事を振って楽をしていたのは部長ということは知っていたので、部長を鍛える上でも悪い話ではない。
 これで回せなくなるようなら、部長としての器はない。今後の会社のためにも良い判断材料となるだろう。
 とんでもない好条件を提示したにも関わらず、佐伯はすぐには承諾しなかったらしい。まあ、そんなにすぐに判断できることではないだろう。だが、自分のキャリアを考えるなら断る理由はないはずだ。
 そして、その日の夜。事態は動いた。

「社長! 佐伯が捺美さんを会議室に誘いました!」

 ついに高城も佐伯と呼び捨てにし出した。って、そんなことはどうでもいい。

「なんだと⁉」

 高城に手招きされて、応接のソファに座る。テーブルにはノートパソコンが開いてあって、高城は自分の耳からイヤホンを外し、パソコンの音量を上げた。
 ザザ、ザザ、という人が動いているようなノイズ音がする。

「なにを聞いている?」

「会議室にボイスレコーダーを仕掛けておきました。これで、佐伯と捺美さんの会話を聞くことができます」

「おい、そんなことまでして大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。ボイスレコーダーは法的証拠として有効とされています。責められたとしても、パワハラやセクハラの立証のために仕掛けたとか、なんとでも言い訳は成り立ちます」

(うわ、怖ぇこいつ……)

 味方だと心強いが、敵には絶対まわしたくないタイプだ。

「どうして佐伯と捺美が会議室に入っていったっていうのがわかった? まさかオフィスに隠しカメラが?」

「いや、それはしていませんよ。スパイがいるのですよ。さっきラインでメッセージが届きました」

「お、おお……」
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