シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 ふと、顔を見上げ時計を見ると、時刻は二十三時五十分。ああ、もう日付が変わってしまう。
 その時だった。
 エレベーターが開く音が聞こえた。慌ててノートパソコンをシャットダウンもせずに閉じる。この時間に会社にいることが知られるとまずいので、デスクの下に隠れた。
 誰かがオフィス内に入ってくる。デスクの下からこっそり見つからないように顔を出すと、スーツを着た高身長の男の人だった。
 警備員さんかなと思っていたけれど、会社の人だったらもっとまずい。どんどん奥に進んできて近付いてくるので、腰を屈めながらサッとデスク下から出て、別のデスク下に隠れながら入口へと向かっていく。
 見つからずに無事にオフィスルームを出て、エレベーターホールまで行けたので、こっそりと誰が来たのか確認するために中を覗き見た。
 薄暗くてよく見えないけれど、ただならぬオーラを発している人物だ。モデルのように細く、高身長で顔が小さい。
 こんな人、うちの部署にいたかなと記憶を探る。佐伯さんも美丈夫だけど、こんなに身長は高くない。
 謎の人物は、私のデスク前に立ち、閉じたノートパソコンをじっと見つめている。その横顔を見て思い出した。

(社長だ!)

 二十代の若さで、一流企業の社長となった御曹司、伊龍院 大翔(いりゅういん ひろと)。本来後を継ぐはずだった大翔さんのお父様は、大翔さんが幼い頃にお母様と一緒に事故で亡くなられたと聞いている。社長だったおじい様は、高齢で体調不良のため相談役となり、大翔さんが後を継いだ。
 たしか、大翔さんが大学を卒業して四年後くらいに社長に就任していた気がする。若いため不安視されていたけれど、年々実績を積み重ねて海外からも高く評価されているとか。
 社長と初めて対面したのは、就職の最終面接。役員の方と一緒に座っていたので驚いた。
 近くで見ると、俳優のように整った顔をしていた。瞳は鋭く切れ長で、鼻筋が通っていて、シャープな形のあごが美しく引きたっていた。手足は長く、黒い柔らかな髪はしっかりとセットされている。白シャツにブラックスーツというクラシックなスタイルにも関わらず、品があって洗練されて見えた。
あまりにも完璧に整い過ぎていて、独特の魅惑的なオーラをまとった社長は、まるで別世界の住人のようだった。あまりにも緊張していたので、その時なにを話したのかは覚えていない。

(なんでよりにもよって社長がいるのよ!)
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